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思えばこれが、秘密のあることをぼんやりと感じたはじめだったのだ。
ほんの小さな綻びが、ミルの心の深いところで目覚めた。
とどめるように、ミルの手にサラの指が触れた。
ミルよりもこのころはまだ僅かに体温が低い、という程度の柔らかな手で包み込まれると気持ちよく、一方で奥に綺麗に秘密を隠されたように感じた。
確かめたくてミルが相手の表情を見ると、少女はまっすぐに彼を見ていた。
そこにはやっぱり、ミルの全てを信頼し、心を開いて見せてくれる者の瞳があったから。
そしてそれはミルも同じことだったから。
…ミルは何度目か知れない満ち足りた思いが湧き上がるのを感じた。
自分に欠けたものがサラから流れ込み、自分から流れ出た熱がサラの欠落を埋めるような。
先程までの不安がとけて行く。
この夜も、サラも。全てが完璧な平穏。
彼に今出せる、そしてこの先永遠に変わらないだろう最適解。
…眠るミルの耳元に、けれど少女がそっと囁いたことを彼は知らない。
『あなたが思うよりもう少しだけ、『最初』は昔のこと。私は覚えているの』
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