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水は、本来なら石像の女の人が手で持って左肩に乗せている水瓶から流れ落ちる仕掛けになっているのだろう。
唇に微笑を刻んだ女の人に、ミルはふと既視感を覚える。誰だろう。
サラは懐かしいものを見るような顔で像を見上げていた。自分に向けるものとは違う表情。
対等じゃない、自分より大きな存在に、無条件で思いを差し出している。
像について聞こうかと考えて、止めた。
ミルはなんとなく知りたくなかった。
うつむくと、像の足元に何か刻まれているのが見えた。
赤茶けた苔に覆われていて読みづらい。
『“FOR CY..IA , MY AR.TEM..S , A REALISTIC DR..? DREAMER”か 』
「現実的な夢想家」?意味不明。
…サラが驚いたように小さく息を呑んだことに、ミルは気付かなかった。
そんなことより今日も読むべき本が沢山あるのだ。
そろそろ帰ろうといって手を差し出すと、『そうね』とサラの手がおさまる。
何の躊躇いもなく、当然のように触れ合う手。ミルは内心で微笑み、歩き出す。
家へと続く小径は、先ほどと、そして去年とまったく変わらない夏の光で満ちていた。
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