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彼はサラに自嘲気味に告げる。
「7歳になったあの日の夜、きみの首飾りにかんしてふれるべきじゃなかった。あるいはもっと食い下がればよかった」
「ごめんね」
色素の薄くなってしまった瞳でサラが詫びる。
「きみに対して私は完璧に誠実ではあれなかった。きみはいつもあるだけの想いをすべて向けてくれたのにね」
ミルはめまいがした。それは怒りややるせなさがないまぜになった感情のせいでもあったし、それら鮮烈であるべき感情をもはや霧を隔てたようにしか感じられなくなってしまった自分への絶望のせいでもあった。
「…謝るんだったら。いまならきみは、秘密をあかしてくれる?ぼくはどうも、近いうちにきみがいなくなってしまう気がする。いまのうちに、きみの口から直接聞きたいんだ」
ややあって彼女は頷いた。首飾りを外し、緑色の石を掲げた。雫形の石の表面には目立たないような黒い文様が象嵌されていた。文様に触れると、人物が浮かび上がった。
「この人は…この女の人?はだれ?」
初めて目にするサラ以外の人間にミルは戸惑った。
ひどくあどけない声でサラが答えた。
「おかあさん」
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