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自動ドアが開くのを待って室内に入ると、スヴェンは驚いた顔をした後、眼鏡型PCの画面を閉じて椅子から立ち上がった。デスク上に散らばっていた資料(スヴェンは紙媒体資料の方が見やすいと譲らない)を手でさりげなく裏返した。しまった、と彼女は思う。最近の自動ドアはあまりに無音だ。
「驚いた。あんたっていつもいきなり来るね」
「ごめんなさい。なんとなく顔が見たくなったの…最近どう?」
「まあ、ぼちぼちかな。データだけは色々あるから解析に追われてる…ま、あんたほどじゃないけどさ」
「そうなんだ」
「あ、今日は一時から各国研究者との合同ディスカッションがあるから、ごめん」
忙しいのはその通りだろう。悪いことをした。彼の研究テーマは時空の歪みの解明で、最近重力波が観測されたこのタイミングは確かに間が悪かった。
でも本当に稀有な連星中性子星合体だったのだ。瞬きみたいな人間の生涯の内でこのイベントに居合わせた興奮を分かち合いたいという気持ちの方が大きくてつい来てしまった。…考えなしだったかもしれない。
「じゃあ私戻るね。頑張って」
そう言って彼女は自分の研究室に戻ろうと踵を返した。
「じゃあね。あんたもこんなとこ来てないで自分の研究頑張れよ。おエライさん方からの「結果出せ」圧すごいんだろ」
彼女は顔を歪めた。その声に僅かに滲む棘に気付きたくはなかったのに。かつての、ノックしてからノブを回して開ける扉でないことを彼女は恨んだ。
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