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いつからだろう。結果を出そうと努力すればするほど、より多くの論文を出し評価を得るほど、潮が引くように周りから人がいなくなっていったのは。
人の成果を我が物にしたり剽窃したりしたことはない。
どんなに結果が出なくて泥の中でもがく苦しみを味わおうが、それは研究者として守るべき一線。
けれど。同じ研究室の仲間が自分を遠巻きにしているのは分かっている。ノートや日誌の共有は嫌な顔をされる。
…今日はとうとうスヴェンにさえ。
(いいえ、私が自意識過剰になって被害妄想に陥っているだけよ)
途端に新たな涙がぼたぼた溢れ出してくる。今度は自己嫌悪。キリがない。
ついでに皆が自分を何と呼んでいるか、といった諸々の余計な澱が降り積もっていく。こういったことに思考を明け渡してはいけないのだけど、自分はずるずると地の底に引きずり込まれてしまう質なのだ。張りつめるほどに削れ、とがった気持ちの先っぽが、今にも折れそうな危うい音を立てた。
どれほどの嗚咽を漏らしただろうか、視界に黒い靴が映りこんだ。ひとりだと思っていた世界に入ってきた誰か。
彼女と同じか、少し大きいくらいのサイズ。続く華奢な足首はすっぽりと真っ黒なズボンで覆われている。シャツも夜色だ。涙にぼやけた目を襟元まで登らせてから、彼女はぎこちなくまた俯いた。人の眼を見据えるのはいつからか苦手になった。
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