手袋をした少年

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サラの指先は少しずつ冷たくなっていく。それが怖くて、彼女はミルに熱をねだる。 「さびしいな」 サラの言葉がポツリと落ちた。 「では僕はこの手袋を脱ぎ捨てて君の顔を包み込もうか?僕の体温と君の体温が同じになるまで?」 「…。いや、いや…。それではいけない。そうしたら私はまたしまう」 「じゃあ気持ちが揺らぐようなことを言うな」 「そうだね。すまない。」 注意してからミルは、自分の頭にかかる霧が昨日よりも濃くなり、乳白色の中に思考が惑っていることを思った。 あと何度自分の理性に基づいてサラを制止できるだろう。 …つまるところ、サラが肉体を失って、ミルが精神を欠落していくのだ。 否、厳密には、この閉ざされた庭の中で、生き物としてのサラの肉体をミルが引き受け、意識を支える精神を2人分ともサラが引き受けつつある。 そのようにして二人はかたや精神、かたやモノとしての肉に一歩ずつ近づき純化されていくのだ。 その先に何が待っているのか、ミルはまだ知らない。
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