誠実と海獣

4/6
前へ
/22ページ
次へ
「なあ、君はなんでこんなとこで泣いてんだ?」 しんとした落ち着いた声が落ちてきた。 温かみはないが、さりとて冷ややかでもない。 ぼうっと火照った頭に問いがころんと転がってきた。 なんで。なんで? しばし固まった後、小さく肩を震わせながら随分と馬鹿で正直な返事をした。 「わ、わから、ない、の」 台詞。 声の主は笑いも呆れもしなかった。 「分からないのか。そうか。それは、とても悲しいね」 声の主は続けて話すでもなく、さりとて立ち去るでもなく、おもむろに向かい側のブランコに座った。振り子の法則を利用した遊具。用途は違えど、古くは紀元前から存在するという。 座席部分のボタンで好きな高さに調整すると、片足を乗せ膝に腕を置いた。 そのまま頬杖をつきじっと彼女を見つめた。 長い沈黙と視線に耐えきれなくなって彼女はぼそっと聞いた。 「いつ、ま、で、そこに、い、いるんですか」
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加