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今日は誕生日
それは随分と昔のこと。
少年の周りにあったのはとんがり帽子の塔みたいな家と、とうに涸れた泉水。
庭と、小道の中のベンチ。ブランコ。
それと姉。
親?
もっと昔にはいたかもしれない…。
突然照り付けるような日差しを感じて、庭で寝転んでいた6歳のミルの目がぱちっと開いた。わざわざ顔にかけていた麦わら帽子を取り去り、鼻をつまんで昼寝を邪魔したのはサラ。顔にはらはらとかかる髪を指に絡める。花の香り。
うふふ、と青い瞳とそれを縁取る睫毛が柔らかくほそめられる。
『早く起きて欲しかったの。だってまた『賢者の塔』が開いたから!多分今日は誕生日ってやつじゃない。』
サラが言い終わるより前にミルは飛び起きた。
それは確かに特報に違いなかったので。
すぐに彼は二人が『賢者の塔』と呼ぶ風変わりな建造物―もとい家に向かって駆け出し、バタンと扉を開けて飛びこんだ。台所に散らばる椅子の間を走り抜けて奥に急ぐ。このかん、知らぬ間に落としかけた花瓶やずれたテーブルクロスをサラが無言で直しつつ追いかける。
貯蔵室の右、階段にたどり着いた。
この三角錐のような形をした家の階段はらせん状で、登るとくらくらしてくる。用心しながら二人で手をつないで上がっていく。二階。
・・・ここまではいいのだ。
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