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多分1年前、それまで壁だと思っていた貯蔵室の右側がゆらゆら開いたり閉じたりしていることに二人は気付いた。引っ張ると、向こう側の暗闇の中に上へと続く階段が浮かび上がった。
それまでは妙な一階建ての家だと思っていた。塔の外観のわりに生活空間が狭すぎたから。
あの日のサラとミルがライトを片手に初めての二階に行くと、そこにはびっしりと絵本が並んでいた。色々な「くに」の昔話や、「どうぶつ」の童話。「数」の話。
「植物」については理解できた。
あとは、歯磨きの仕方とか薬の種類についての説明もあった。1年かけてそれらを何度も読み返した。
当時3階につながる階段は閉ざされていた。それが今、彼らの前にその身を開いて手招きしているのだ。
サラを見る。いつもは柔らかな頬が、緊張のためか少し硬いけれど、瞳は燃えるようで、ミルをひたと見返した。かすかに笑ってさえいた。
『行こう』
手をつないで、どきどきしながら一段ずつ上る。
期待と、怖れ。
もし絵本にあったようなお化けが出てきたらどうしよう。
それか本なんて無かったら?
そう思うと足がすくむけれど、立ち止まりはしない。
だって向かう先にはきっと…今度も…ほら!
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