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ライトを掲げると、ぐるり一面に広がる宝の山が出迎えた。ミルは嬉しくてぶるっと震えた。これで又新しい知識が増えると。
サラ以外には誰もいないここでは、貪欲に好きなだけ本を読める。きっとここは世界の果てに立つバイト・アル・ヒクマで、自分たちは秘密を知る隠者だ、と彼は想像した。
…別に知識を生かしてどこかに行こうとか思ってるわけじゃない。本を読む限りでは世界はもっと広く、ここはちっぽけだろうと思う。が、彼にとっては満ち足りていて完璧だった。寂しいといって友達を捜す旅人の話があったけど、彼は実感したことはないし、する予定もないのだろう。
彼には姉がいた。
時が止まったような箱庭の世界は、濃密な花の香りのように二人の愛するものの気配で満ちていた。
ミルはサラがうっとりしながら本に手を伸ばすのを目の端に捉えた。題は『大地の成り立ち』。きっと地理に関するものだ。少年は『星と神話』を選んだ。
台所まで降りていって、二人は思い思いの場所で読み始める。
サラはきちんと腰掛けるけど、ミルは床にぺたっと座って椅子の足に背をもたせかけるのが好きだ。この椅子は座るにはちょっと高すぎるから。床に届かないサラの足が気まぐれに揺れていた。
集中し始めると静止し、興奮すると椅子の上で胡坐をかいて膝の上に本を置く。飽きてくるとひじ掛けに足を載せる。とても分かりやすい。
ミルは床に腹ばいになる。床の冷たさを膝や頬に感じると汗が引いてゆく。
なんとなく確立した彼らの定位置。
何時間もそうやって過ごしていると、気付けば空が赤い。茜色はだんだんと空と大地が接しているところに漂っていって、上の方は深い藍色になっていく。
『そろそろ夕飯にしようか』ミルが声をかけた。
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