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最初は直ぐに元になんて戻れないと思っていた。
一度は小さな秋彪を捨てて出ていったと思われていても仕方ないのだから。
でも、秋彪はそれを知りつつ、母のことも自分の事も自分で決めてきた強い子だ。
兄として受け入れてくれるのか少し不安だったが、啓示が降りてからは毎日のように一緒にいることが多くなった。
「兄貴」
そう呼ばれる度に、感情を隠し生きてきた年月が嘘のように笑顔になる。
「秋、お前飯も作れないのか?」
「兄貴に言われたくないよ!なんでラーメンがそんなにドロドロになってるんだよ」
「あ!茹ですぎた……」
「冬弥さんの所の下宿でなにか食わせてもらうか……」
「そうだな」
「んじゃ、行くかぁ」
途中、甘栗を買って持っていき、下宿にいる子供たちにも分けてあげる。
「やっぱ甘栗は美味い!」
「食いすぎるなよ?」
穏やかな日々が長く続きますように。
弟と長く一緒にいることが出来ますように。
もう、離れることは無いと心の中で約束し、今まで出来なかった兄らしい事をしようと決める。
「下宿に来ると弟や子供が増えたみたいで大変だな冬弥」
「ええ。そのうち怜さんも慣れますよ」
「そうだな」
春はもうすぐ。
また新しい季節がやってくる。
いつまでも一緒に……そう考えていると「兄貴、飯来たぞー!」と大きな声で呼ぶ秋彪。
「聞こえてる!」
全く……もう少し大人になってると思ったんだけどな……
(終)
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