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——この町もこの学校も普通じゃない。
国家指定を受けた『特殊能力病』を持つ人間が住民の大半という異常地域。
隔離された閉鎖的な町の、能力者たちだけで構成された私立中学。
そんな物騒な学校に今年度から編入してきた笠音が、手渡された金属バットをしげしげと眺めながら呟いた。
「……私の腕力でちゃんと振れるでしょうか」
細くて白い指、そして腕。ああ、手首にも包帯だ。いつか骨が折れたりしないと良いけど。
確かに笠音ちゃんでは重すぎるかも、とあたしは思案して、
「だったらこれとかオススメだよ」
あらかじめ壁に立てかけておいた、もう一本のバットを取り出す。
「金属製だけど、持ち手が長めだから少ない力で振り下ろせるの。これ、『Bamboo』がスポーツ用じゃなくて、タイマン用に独自開発したらしいんだ」
笠音がバットを持ち替えるなり、おお、と感嘆の声を漏らす。
重さはそれほど変わりなく、それでもずっと遥かに持ちやすくて振り下ろしやすい。重さはあんまり妥協してはいけない。相手に叩き込むダメージも減ってしまうからね。
「こんなものがあるんですね」
「バットだけじゃないよ。グローブとボールもオリジナルブランドで揃えてあるから。ほら、このグローブなんて……」
あたしは足元に置いておいた段ボール箱から、グローブを取り出す。見た目は野球で使うものと大して変わらない。
「触れた相手に電気ショックを与えられるんだよ。相手によっては気絶するし、耐性があっても多少は動きを鈍らせられる」
自らグローブを嵌めてみせ、ばちばちと、明らかにやばい音がしている皮を見せてあげる。
実はこれ、笠音ちゃんのために取っておいたやつ。いずれは買いに来るだろうと思ってね。
「なるほど……でもそれ、相手に触れたらの話ですよね?」
笠音が顎に手を当てながら、
「私に喧嘩売ってきた男子、『風』使いなんですよ。近づく前に吹き飛ばされてしまいそうです」
「接近できないなら飛び道具だ!」
すかさずあたしは、別の道具を取り出した。
これも段ボールに入っていたやつ。笠音ちゃん用。あたし、笠音ちゃんのこと結構応援してるから。笠音ちゃん贔屓な店員なんだ。
「このボールはすごいよ。投げた球の『弾道』を設定できる。投げるのに自信がない人でも安心設計」
「へえ……そんなものもあるんですね」
「でも気を付けて、一度手放したら弾道は変更できないからね。相手が『重力操作』持ちだったり、プログラムの『ハッキング』ができるような奴だと、最悪ブーメランみたいにボールがこっち飛んできたりするから」
「重力操作できる生徒がいるんですか?」
「あたしの学年にはいたね。あれ、まじで初見殺しだから気を付けて」
なるほど、と納得して頷く笠音。
そう、この学校では自衛手段なんて選んでいられない。
あらゆる埒外の能力を有した生徒たちが、全校生徒の頂点を目指して潰しあう地獄の学校だ。
ましてや『女王』が不在の今は、生徒会や風紀委員の統制もなかなか取れず、派閥争いがあちこちで激化している。早いうちに新たな『女王』が生まれなければ、いずれは学校崩壊する日も近いだろう。
だから——もしも。
この編入生が、『女王』に就いてくれたなら。
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