第1話(前):金属バット

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「分かりました。これ買います」  振りやすい金属バットと命中率の高いボールを手に、笠音があたしを見上げてきた。黒い髪、黒い瞳。本当に美人さん、公立中学だったら絶対モテてた。 「……ねえ、笠音ちゃん」  あたしは問いかけた。 「本当に転学する気はないの? 学校(ここ)、『無能力者(ノーマリティ)』にはかなりしんどいよ」 「……確かに」  笠音は少しだけ俯いたが、すぐに顔を上げ直し、毅然とした学級委員の面持ちで。 「私もこの学校に来た時は、どうしてこうも殺伐としてるんだろうって思いました。ですが、だからこそ私は、この学校で頑張ることに決めたんです」  この私立中学の新風——未来の『女王(クイーン)』。 「いつかは私が『女王(クイーン)』になって、この学校の校風を一からひっくり返してみせます。生徒同士が喧嘩することのない、安全で平和で、誰もが仲の良い学校を目指します」  それが私の公約だ、と笠音は言った。  自ら選んだ新たな学校生活の舞台にて、己のするべき使命がはっきりと見えてきたのだと。 ===== 「だからこそ、今はもっと強くならないと」 「……そっか」  傷だらけの女子中学生が、固い決意を見せる夕方四時。  あたしは笑顔で、あたしだけでも笑顔で。 「がんばれ編入生、未来の『女王(クイーン)』!」  ——かつての『女王(クイーン)』から、直々にエールを。  からん、と購買の扉が閉じられる。  紺色のブレザーを羽織った戦乙女を、あたしは笑顔で見送った。 「毎度、ありがとうございました〜」  ここは私立中学の購買店——『Bamboo(バンブー)』。  能力者が集いし学校で、ただひとつ存在する、無能力者たちの作戦場。
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