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「分かりました。これ買います」
振りやすい金属バットと命中率の高いボールを手に、笠音があたしを見上げてきた。黒い髪、黒い瞳。本当に美人さん、公立中学だったら絶対モテてた。
「……ねえ、笠音ちゃん」
あたしは問いかけた。
「本当に転学する気はないの? 学校、『無能力者』にはかなりしんどいよ」
「……確かに」
笠音は少しだけ俯いたが、すぐに顔を上げ直し、毅然とした学級委員の面持ちで。
「私もこの学校に来た時は、どうしてこうも殺伐としてるんだろうって思いました。ですが、だからこそ私は、この学校で頑張ることに決めたんです」
この私立中学の新風——未来の『女王』。
「いつかは私が『女王』になって、この学校の校風を一からひっくり返してみせます。生徒同士が喧嘩することのない、安全で平和で、誰もが仲の良い学校を目指します」
それが私の公約だ、と笠音は言った。
自ら選んだ新たな学校生活の舞台にて、己のするべき使命がはっきりと見えてきたのだと。
=====
「だからこそ、今はもっと強くならないと」
「……そっか」
傷だらけの女子中学生が、固い決意を見せる夕方四時。
あたしは笑顔で、あたしだけでも笑顔で。
「がんばれ編入生、未来の『女王』!」
——かつての『女王』から、直々にエールを。
からん、と購買の扉が閉じられる。
紺色のブレザーを羽織った戦乙女を、あたしは笑顔で見送った。
「毎度、ありがとうございました〜」
ここは私立中学の購買店——『Bamboo』。
能力者が集いし学校で、ただひとつ存在する、無能力者たちの作戦場。
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