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第六十七話 トップを取ったら
「話す事なんてありません」
その手を振り払う。
「何年かぶりの再会だ。俺とお前は同じ女を仲良く共有した仲だろ?」
仲良く共有した覚えなんてない。大体あれは、翔太先輩が美影を大切にしなかったから。
「そういう所、本当に変わってないですね。良いですよ。お話ししますか。翔さん、美影のことお願いね。美影、すぐに戻るから」
美影の頭を優しく撫でると、陽介くん、喧嘩したら駄目だよ。私とのことは過去のことなんだからと言ってきた。
「大丈夫、喧嘩なんてしないよ。だって、今の美影は俺の妻なんだから。過去の事なんてどうでも良い」
そう言って翔太先輩の後をついて行き、スタッフルームを出てライブハウスの裏に行く。
「美影のやつ、いい女になったな」
翔太先輩は煙草を咥えて火をつける。
「当たり前です。俺の大切な人ですから」
「言うようになったな、お前。まあ、お前にとっても都合のいい女だよな」
煙を口から吐き出してそんな事を言ってくる。
「どういう意味ですか」
「どういうって。女は利用してなんぼだろ。美影が失明して足に障害を負ったから、お前はそれを利用して家族になった。そしてファンから障害者を介護する愛妻家の陽介くんっていうキャラ付けに成功した。違うか?」
いったいこの人は何を言っているんだろう。俺は美影を利用したくて家族になったわけじゃない。
「違いますよ。俺は今までずっと、美影のこと、一人の女性として愛してきました。だから、彼女の言う事なら何でも聞いてあげたいと思うし、独りで歌ってと言われればそうします。それは、美影が失明していなくても、足が不自由じゃなくても変わらない」
「そんなの綺麗事だな。お前は昔からそういう所、変わってねえな。少しは素直に生きろよ。本当は、自分の為に子供まで作って美影のこと、利用してきたって。だって、そうじゃなきゃ、あんな都合のいい女側に置いておくわけねえもんな」
翔太先輩が軽く笑う。
駄目だ、美影に喧嘩はしないでって言われたけど、腹が立ってきた。仕方ないよね、大切な女性をここまで言われて我慢なんて出来るはずがない。
「悪いんですけど、翔太先輩に美影のことそこまでいう資格ないですよ。彼女の本当の魅力に気づけない貴方に。俺は、彼女の魅力にちゃんと気づいて家族になりました。失明して暗闇に包まれても自分が太陽になるって決めた」
俺がそう言い返すと翔太先輩は、お前のそういう所、やっぱ嫌いだわ。だけど、翔平が認めた男だ。俺も、お前の歌声は売れる可能性をみてる。だから、プロとして協力はしてやると言った。
「奇遇ですね。俺も、翔太先輩の女性を玩具とか道具にみているところ大嫌いだからちょうど良いです。でも、美影のお願いがあるから貴方の言う通り、独りでも歌います。そしていつか、貴方に頼らなくても良いぐらい俺は月夜の光、ボーカルの陽介としてトップを取ります。その時に翔さんに言って貴方には月夜の光プロデュースを辞めて貰います」
「へえ、おもしれえじゃん。やれるならやってみろよ。じゃ、トップを取れなかったら、美影と犯らせろ。利用できるだけしてやるからさ」
そんな提案、聞けるわけがない。そもそも俺が素直に応じると思ったのかな。
「ふざけるのもいい加減にして下さい。美影とさせるわけないでしょ。今日限り貴方とは会わせません」
そう言って睨み付けて翔太先輩を残してライブハウスに戻った。
「翔さん、俺、頑張るから。だから、トップ取ったらあの人を辞めさせて」
スタッフルームの扉を少し乱暴に開けながらそう言った。
「何だ、突然。あいつと何かあったのか」
「何かあったとかの問題じゃなくて、あの人は美影の」
そこまで言いかけて美影に、陽介くんと言って止められてしまった。
「美影、何で」
「私と先輩の過去は翔さんには関係ないことだから。だから、話さないで。それに、今は陽介くんだけなんだよ。陽介くんのことしか見てないから落ち着いて。お願い」
仕方なく深呼吸をして落ち着くことにした。
ー続くー
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