第七十二話 義兄弟のテレビ共演

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第七十二話 義兄弟のテレビ共演

 早朝、五時。携帯の目覚まして目が覚める。  「さて、お弁当作りしないと」  ベッドから起き上がり着替えを済ませて伸びをする。  台所に向かうと泰叶がもう起きていて、自分で弁当作りを始めていた。  「あ、おはよ。父ちゃん」  「泰叶、おはよう。どうした?」  今まで自分で作っているところを見たことなくて驚いてそう聞いた。  「どうしたって、たまには自分で作ってみようかなって」  「そうなんだ。じゃ、お父さんも手伝うよ」  手洗いを済ませて泰叶が作っている卵焼きを見る。その卵焼きはぐちゃぐちゃで焦げていると言うより黒かった。  そっか。俺よりも家事が上達したと言っても、一人で料理はしたことなかったもんな。  「えっと、ちょっと火が強すぎると思うよ、それ」  せっかく一生懸命に作っているから気を遣ってそう言ってみる。  「いや、だって、さっきから簡単な物を作っているんだけど、父ちゃんみたいに上手に出来ないんだよな」  小さな声でそう話して、可笑しいなと続ける。  「まあ、今度お父さんが料理教えてあげるよ。だから今日はお父さんに任せて」  泰叶の頭を優しく撫でる。  「あ、じゃあ、俺、手伝う。出来ることがあったら言ってくれ」  「わかった」  二人で弁当を作りながら朝食も作っていく。  「おはよう」  「あ、おはよ、美影」  朝食と弁当が作り終わった頃、美影が美夢を連れて起きてきた。  「朝食できてるよ。美夢かして」  美夢を美影から受け取り、ベビーチェアに座らせる。  「先に食べてて。美夢の分も用意するから」  手早くミルクを用意して美夢を抱き、あくびをしながらそれを飲ませる。  「陽介くん、大丈夫?」  「え、何が」  ふとそんな事を聞かれて聞き返す。  「だって、昨日、帰って来たの遅かったから。疲れてない?」  「全然平気だよ。体力には自信しかないから。あ、もうこんな時間だ。仕事行ってくるね」  携帯で時間を確認すると七時を表示している。  「行ってらっしゃい」  「うん、行ってきます」  自宅マンションを出ていつものバイクでテレビ局に向かう。  八時頃にテレビ局に到着し、その足で楽屋に行く。  「おはよう、陽介。今日はよろしくな」  「おはよう、よろしく」  翔さんと挨拶を交わして衣装に着替えを済ませる。  「そういえば翔さん、昨日はどうしたの。ライブハウスに翔さんが居ないのって新鮮だったよ」  昨日のことを聞いてみると翔さんは少し気まずそうに、仕事だったんだよ。智史から聞いてるだろと言った。  なんか、様子が変だな。大丈夫かな。  「聞いてるけど、何か、ちょっと気になってさ」  「まあ、あれだ。陽介は何も気にするな。俺も俺で忙しいんだよ。事務所立ち上げたばかりだしな」  そっか、事務所の立ち上げしてすぐに俺のソロデビューの話。忙しくないわけないよね。  「もしなんか手伝えることがあったら教えてね。俺も翔さんの役に立ちたいし」  「ありがとう。けど、今はお前も忙しいんだから俺の事は気にするな。作詞もすることになってるって話しも聞いただろ」  翔さんの言葉に黙って頷く。  「大変だろうが、応援してる。頑張ってくれ」  「ありがとう、頑張るよ」  そんな話をしているとスタッフが呼びに来た。  朝の番組収録が始まり、色々と他の出演者とも絡んでいく。  「翔さんと陽介くんは義理の兄弟なんですよね。お兄ちゃんって呼んだりするんですか」  「たまにしますよ。そしたら翔さん、少し嬉しそうな顔するんです」  そんな話をしていると、隣に座っている翔さんが恥ずかしそうに鼻で笑う。  「翔平兄ちゃん」  からかうように言うと、恥ずかしいから呼ぶのやめろよと返してきて共演者達が笑った。  「良いじゃん、兄ちゃん」  「だから、やめろって」  翔さんとそんなやりとりをすると周りからまた笑い声が上がる。  それから一時間程で収録が終わった。  「お疲れ様です、ありがとうございました」  楽屋に戻り、二人で一息つく。  「この後は雑誌取材だっけ」  「ああ、そうだな。少し休んだらスタジオに向かうか」  翔さんに、うん、わかったと返事をして少しの間横になる。  二人での仕事も楽しいけど、疲れたな。昨日、帰ったのが遅かったしな。  「陽介、大丈夫か」  「ああ、うん。大丈夫だよ。ただ、昨日、帰って寝たのが遅かったから、少し寝不足で」  正直に答えると、きっと、ソロデビューシングルが出たらもっと忙しくなるな。悪い、陽介ばかりに忙しい思いをさせてと翔さんが申し訳なさそうに言った。  「そんな事。良いんだよ、俺はみんなと一緒にトップを取りたいから、そのために自分を売り出すって決めたんだ。それに、発売されたら美影も喜んでくれるし、それだけでも俺にとっては意味のあることだからね」  起き上がり真剣に翔さんを見る。  「そう言ってくれると助かる。ありがとう。じゃ、そろそろ行くか」  「うん」  二人で次のスタジオに行き、先に雑誌に載せる写真を撮っていく。その後に取材があった。 ー続くー
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