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第七十三話 家族みたいなもの
「色々と聞いていきたいと思っていますのでよろろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
翔さんと並んで椅子に腰掛け、雑誌記者の質問に答えていく。
「翔平さんの奥様は陽介さんのお姉さんとの事ですが、二人が交際されていると知った時、弟としてどう思いましたか」
楓姉ちゃんに呼び出された時か。あれからもう、十何年経っていると思うと懐かしいな。
「あの時は本当に驚いて理解が追いつきませんでした。でも、姉ちゃんが幸せそうだったから良いのかなって。俺の姉ちゃんは俺が幼い頃から自分のことより弟ばかりを心配していて。だから、結婚したい相手が見つかって、それが翔さんなら俺も嬉しくて。月夜の光リーダーとしてもだけど、義理の兄としても頼りになる人だと思っています」
昔の事を思いだしながらそう言って答えていく。
「お二人を見ていると本当のご兄弟のように見えて微笑ましいです」
「まあ、俺にとっては陽介もそうですが、他のメンバーも親友であり、家族みたいな物です。ただ、こいつは妻の弟と言う事もあって少し特別ですが」
翔さんがそう言いながら頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
普段ならこんなことしてこないのに。二人で仕事の時のファンサービスかな。
「仲がとても良いですね。ありがとうございました。今日の取材はこれにて終了になります」
「はい、ありがとうございました」
雑誌取材が終わり、その場で伸びをする。
「陽介、この後は」
「また、ライブハウスに行って健にギター教えて貰う予定。その後、やっと終わり。翔さんもライブハウス戻るなら一緒に行こうよ。俺はバイクだけど、ちゃんとついて行くよ。翔さんは車だよね」
翔さんは何処か気まずそうに、そうだが、今日はこのまま帰る。智史にライブハウスのことは任せてあるから陽介は安心していってこいと言った。
「そっか、わかった。あ、翔さん。今度さ、俺の歌とギター聴いてよ。今はまだそんなに変わってないと思うけど絶対上達してみせるから」
「ああ、そうだな。楽しみにしてる」
翔さんの様子に不思議に思いながらも深くは考えないことにした。
「それじゃ、健が待ってるから行くね。お疲れ様」
「ああ、またな。お疲れ」
翔さんと別れて少し急ぎ目でライブハウスに向かう。
「お疲れ」
「おう、来たか。早く荷物置けよ。練習、始めんぞ」
ライブハウスに着き、中に入ると少し嬉しそうに健が言った。
「何か、嬉しそうだけどどうしたの」
「別に、嬉しくねえよ」
そう言いつつ、今度は照れた表情になった。
「陽ちゃん、お疲れ様」
「あ、智史さん。お疲れ様」
智史さんと挨拶を交わしながら荷物を隅に置き、ギターを取り出す。
「健っちね、陽ちゃんとギター弾けるの楽しみにしてるんだよ。昔っから健は陽ちゃんとギター弾きたいって言ってたんだから。本当にうちの下剋上コンビはやけちゃうぐらい仲が良いよね」
「智史さん、余計なことをべらべら話すなよ」
健のつっこみに、だって本当のことじゃんよと智史さんが返す。
「智史さんのことはほっといて、陽介、早く練習するぞ」
二人で練習を始めて休憩を挟みながら数時間が過ぎる。
「今日はここまでにしておくか」
「うん、そうだね」
練習が終わり、帰り支度を始める。
「じゃ、お疲れ様」
軽く挨拶を済ませてライブハウスを出て自宅マンションに帰る。
ー続くー
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