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第七十四話 思い出
「ただいま」
「お帰りなさい、陽介くん」
美影が壁伝いに玄関まで出てくる。
「リビングで待っていても良かったのに」
「だって、お出迎えしたかったから」
そんな可愛いことを言って貰えてつい、美影を抱きしめてしまった。
「陽介くん?」
「ああ、美影が居る。何でこんなに幸せなんだろ。何でこんなに可愛いんだろ」
美影のぬくもりを感じるだけで色々なことを頑張れそうな気がする。
「私も幸せだよ。こんなに格好いい旦那様がいて」
不思議だな。俺のことを何でも知っているように、いつも美影は欲しい言葉をくれる。
「駄目だ。もう少しこうしていたいんだけど、眠くて」
「大丈夫だよ。最近忙しかったもんね。ゆっくり休んで」
美影の言葉に、うん。ありがとと返して彼女をリビングに連れて行きすぐに寝室に向かう。
そして倒れ込むようにベッドに横になって眠りについた。
それから一週間程が過ぎて、健からソロデビュー曲のデモデータが届いた。曲調はバラードで翔太先輩の指示だと聞いた。
家のことや仕事をこなしつつ歌詞を考えていく。
どうせ書くなら良い物にしたいし、美影の為に書きたい。
「君の見える世界が、暗闇に包まれた時から、僕は君の太陽になりたいと願った。よし、これは入れよ」
美影とのことを思いだして良いフレーズを考えていく。
思いだしてみれば、美影との間に色々なことがあったな。
出会いは大学一年の時。
大学の入学式の時、美影とたまたま席が隣になって笑顔で軽く挨拶を交わした。その笑顔にやられた俺はもっと美影と仲良くなりたくて読書サークルに入った。そこで翔太先輩と出会い、後に美影と付き合い始めた事を知った。
それでも彼女の側を離れようとは思えなくて、彼女を傷つける翔太先輩から奪い取った。
きっと、美影がいなかったらここまで好きになる人も、バンド活動もしなかったと思う。そう考えると美影は本当に凄い。
「僕は君の太陽になれていますか」
そんな事を思いだしながら何とか書き上げることが出来た。
早速健が送ってくれた楽譜を見ながらギターを弾き、歌を入れていく。
自分なりには満足のいく感じにできたと思う。
歌い終わってから早速メンバー共有のファイルにしまって報告メールを送る。
翔太先輩にもデータを送って確認して貰い、何とか合格を貰った。
後日、ライブハウスにメンバーと美影、楓姉ちゃん、翔太先輩に生で聴いて貰った。
その時、翔さんと楓姉ちゃんの様子が何処かよそよそしく感じた。
何かあったのかなと気にしつつ歌い終わった。
「陽介くん、格好良かったよ」
「ありがとう、美影」
笑顔で美影がそう言ってくれて嬉しく思っていると、曲も完成したし、レコーディングしてたくさん売り出していくから寝る暇なんてなくなる。覚悟しとけよと翔太先輩に言われた。
「もちろん頑張りますよ」
「そりゃ頼もしいな」
そんなやりとりを翔太先輩としていると楓姉ちゃんに、ちょっと話があると言われて翔さんと一緒にスタッフルームに連れて行かれた。
ー続くー
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