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◇
ただいま、と靴を脱ぎながら声を掛けるが、いつも通り返事は無い。居間を覗けば、父と母がソファで寛いでいて、二人とも娘の存在を打ち消すように無視をする。
しかし、それも気にならない。玄関のドアを開けた瞬間から、もう感情のスイッチは切られている。
階段を上がり自室に籠もる。隣の部屋はこのところずっと静かだ。そこの主は大学生になってできた恋人の家に入り浸っていて、殆ど帰って来ない。それはそれで平和なのだが、親は不機嫌だった。
自分が帰って来なくなっても両親は同じように不機嫌になるのだろうか、と、あり得ないことを今更ながら考えて自嘲し、餌を強請って脚に擦り寄ってくる腹の大きな猫の背を撫でた。
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