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いつの間にか、私は無表情キャラというこの物語での自分の役割を大きく逸脱していた。だけど……それがなんだ。
それがなんだ!
与えられた役割なんてクソ喰らえだ。人はどんな時でも自由に生きる権利を持っている。私たちは強く願えば空だって飛べるし、太陽のように輝くことだって出来るし、何処にだって行ける。なりたい自分にくらい、なれて当たり前なんだ。私の言葉を真剣な眼差しで聞いていた二舘さんがポツリと洩らす。
「昨日の……自分に……勝つ、か」
普段めったに大きな声を出さないせいか、言い終わった私は肩で息をしていた。額から汗が流れる。心臓がバクバクしている。今更手足がガクガク震える。だけど言いたいことは言えた。それは、もしかしたら二舘さんにだけじゃなくて、私自身に言いたい言葉だったのかも知れない。
「変われるかなあ……。俺」
二舘さんは独り言のように呟く。私はそれに答える代わりに質問する。
「教えて。……二舘さんの好きなものって何?」
「俺の、好きなもの?」
私は頷く。
「そう。一つくらいあるでしょ? 胸を張って好きって言えるもの」
自然と笑みが溢れる。それは私だけじゃなくて二舘さんも同じだった。
「俺……いや、僕は、僕は小説を書くことが好きなんだ」
「好きなものを好きって言える人はカッコイイよ」
私は正直に答えた。二舘さんは恥ずかしそうに頬を掻く。
「僕は警察に出頭するよ。自首して罪を償うんだ」
「それが良い。君はまだ若いから充分やり直せる」
私の隣で一さんがうんうんと頷く。気づけば三枝さんや五識さんたち、周りの大人たちも優しい眼差しで二舘さんを見つめていた。
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