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「最後に君の名前を教えてくれないか」
二舘さんは柔和な笑みを浮かべて私にそう訊いた。私は答える。
「八重花。八雲八重花だよ」
「八重花さん。……もし僕がいつか罪を償ってまた君に会えたら、その時は僕と「ごめんなさい」」
私は二舘さんが言い終わる前に深々と頭を垂れた。再び場が静まり返る。
「いや……、まだ最後まで言ってな「ごめんなさい」」
私は綺麗に九〇度の角度に腰を折ったままで同じ言葉を繰り返した。二舘さんがなりたい自分を目指すように、私だってなりたい自分を目指すことに決めたのだ。私はやっぱりイケメンの若い会社社長とお付き合いしてタイムリーランデブーをするんだ。残念ながらその未来に二舘さんは居ない。入り込む余地が無いといっても過言ではない。
「なんだよそれ……。結局、結局顔と金じゃないかああああ!」
二舘さんの感情が爆発した。いやいやいや。そんな急に惚れられて断ったからってブチ切れる男とか尚更無理だし。
「ぶっ壊してやる。……こんな世界なんかぶっ壊してやるよおおお!」
そう叫んだかと思うと、おもむろに二舘さんは着ていたコートを変質者のようにバサッと脱ぎ捨てた。咄嗟に私と七瀬さんは目を塞ぐ。こんなところでトラウマを植え付けられてたまるか。でも何故か四間さんは男性陣と同様に、いや、それ以上に目をおっ広げて刮目していた。ガン見である。
「うわああああ! な、なんだそれはあああ!」
「ひいいい! に、逃げろおおおお!」
目を瞑っている私の耳に三枝さんたちの絶叫が聞こえる。え? 何なにナニ? そんな大の大人たちが逃げ惑うようなモノってナニ? えっと……ナニがナニってこと? 私は怖いもの見たさで思わず目を開いてしまった。そこには――
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