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……っていう夢を見たんだよ」
「長っ!」
涎を拭きながら語り終わった一さんに私はツッコむ。
ここは一言探偵事務所のオフィス。麗らかな午後の日差しが眠気を誘うこの一室で、たった今昼寝から目覚めた一さんは寝ぼけ眼で滔々と自らが見た夢の内容を私に語った。結局夢だった。最悪だ。どうりでこの小説の冒頭にカギ括弧が二つあったわけだ。冒頭部からここまでずっと一さんの一人語りだったのか。よく私も一言も喋らず聞いていられたものだ。けっこう暇なのか? 私。というか、
「夢の中の私酷すぎじゃないですか? もしかして私って一さんにはそう見えてるんですか?」
それならショックすぎる。こんなに法外に安い時給で身を粉にして働いているというのに、あまりに報われなさすぎる。本気で今後の身の振り方を考えたほうが良いのかも知れない。
でも。
それでも。
そんな風に思案しながらも。
結局この後も私は一言探偵事務所で働き続けるのだろう。借りを返さなければいけないから。
『人に借りたものは返しなさい』
幼い頃、今は亡き父に口酸っぱく言われ続けた言葉だ。いつ返済できるか分からない。一さんに借りた恩はそれほどに大きい。大恩と言っても差し支えない。だから私は一さんに――「ちょっと一回止めようね」
一さんが横から口を挟む。
「なんか今モノローグっぽいこと考えてたよね? 一応言っておくけど無いからね? この作品はこれでもう終わりだからね? このあとシリアス回とかにはいかないからね? 出オチからの爆発オチの夢オチで普通に終わるから。あと八重花ちゃんのお父さんバリバリご健在だよね?」
「チッ」
私は舌打ちする。
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