2人が本棚に入れています
本棚に追加
「考えてたよね!? 無理やり恋愛モノにしようって絶対考えてたよね!? 無いよそんな展開!? 僕には百合愛さんっていうれっきとした婚約者が居るからね!?」
一さんは言う。まさか、このあと一さんの婚約者である百合愛さんが『百富町連続失踪事件』に巻き込まれるだなんて、この時の私たちは想像さえしていなか――「やめろおおおお!」
一さんが絶叫して椅子から立ち上がる。
「人の婚約者を妙な事件に巻き込もうとするなあああ! ていうかどんだけ好きなの連続失踪事件!? そんな物騒な事件この町で起こることないからね!? 都会から人が引っ越してきただけで蜂の巣をつついたような騒ぎになる町だからね!?」
ゼーゼー言いながら一さんが否定する。見れば肩で息をしている。少しからかい過ぎたようだ。
「すみません。少し揚足を盗りすぎました」
「いや、揚足は盗るじゃなくて取るだから。『揚足を取る』って鶏の手羽先とかを盗むことじゃないからね? というかもういい加減終わりにしようよ?」
一さんはうんざりしたような顔でそう言う。
「じゃあ私たちの関係もこれで終わりってことですか?」
「妙な勘違いを生むような言い回ししないでね。もう定時過ぎたから帰ろうってことだから」
一さんはため息混じりに言って椅子に座り直す。そういえば今日も何の依頼もなかったことを思い出す。だべって終わり。大丈夫だろうか。この探偵事務所。
最初のコメントを投稿しよう!