一言探偵の一言

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 少しの沈黙の後、世間話でもするような軽い口調で一さんは三枝さんの問いに答える。 「冷静でなければ探偵は務まりませんよ。こと、殺人現場に居合わせた探偵なら尚更ね」  殺人現場。そう。今私たちの居るペンションニカタは殺人事件の起こった現場なのだ。しかも、あろうことか殺害されたのはペンションオーナーの二階堂(にかいどう)二舘(にかた)さんなのだ。つい数時間前、ペンションがあるこの離れ小島に到着した私達を温かく出迎えてくれた二舘さんが、今は自室のベッドの上で冷たくなっているという事実は受け入れがたいことだった。そのことに、二舘さんが何者かに殺害されたことに対して、私はかつて感じたことのないほどの憤怒の感情を覚えていた。その理由は明白だ。  また一人、この世界からイケメンが居なくなってしまったからだ。  長身で色白、背が高く整った顔立ち。長めの髪も決して不快な印象はなく、寧ろ何処かの貴族の末裔と言われても信じてしまうほどの相貌。そして、なにより陰キャでメガネ女子の私に対してもとても紳士的で優しかったのに!  本当なら夕食を終えたあと、二舘さんと二人きりでこのペンションの外に広がる孤島を散策する予定だったのだ。そして私は二舘さんに誘われて満点の星々が見守る砂浜で生まれて初めてタイムリーランデブーする筈だったのに! いや、犯人の野郎マジで許さん! 捕まえたらどうしてくれようか。  左胸にナイフの刺さった二舘さんを二階の寝室のベッドに寝かせたまま、私たち宿泊客と従業員の計七人は一階にあるリビングに集合した。それが今から五分ほど前のことだ。階段を降りる際、一さんは私にだけ聞こえるように「あれは明らかに他殺ですねえ」と呟いていた。その種明かしが今から公然と披露されようとしていた。
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