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「ちょっと待ってください! 二舘は……、二階堂オーナーは自殺したんじゃないんですか!?」
リビングの端で一さんと三枝さんのやり取りを聞いていた使用人の七瀬七日月さんという女性が口を挟む。七瀬さんは日焼けした肌が快活そうな印象の妙齢の女性だ。家事が得意ということで二年前からこのペンションに住み込みで働いているそうだ。七瀬さんは白のTシャツにジーンズというシンプルな服装だけど、メリハリのある体つきから大人の色香みたいなものを感じる。要するに私と正反対の人間ということだ。
「自殺? 七瀬さんは何故二舘さんの死因が自殺だと思われたのですか?」
一さんは七瀬さんの顔を見ながら本当に不思議そうに首を傾げる。見様によっては人を小馬鹿にしているような仕草にも見えるけど、一さんは至って真面目だ。
「な、何故って貴方本気で言ってるんですか!? オーナーは自分自身でナイフを胸に刺して死んでいる状態だったんですよ!? 自ら命を絶ったのは誰がどう見ても明らかじゃないですか!」
七瀬さんは感情的に捲し立てる。第一発見者の彼女は二舘さんの死因が自殺ではなく他殺だった場合、真っ先に容疑者として疑われるであろうことを理解しているからか、懸命に他殺の線を否定する。
「僕も彼女の意見に賛成だ。あれは明らかに自殺でしょう」
七瀬さんを宥めながらそう主張したのは五識さんだった。五識さんは七瀬さんの正面に回り込み、彼女を庇うようにして一さんの正面に立つ。その瞳は一さんに対して明らかな敵意を向けている。五識さんのその姿からはどことなく七瀬さんと親密な関係であるような気配が窺えた。とても今日が初対面の二人には見えない。その様子を見て一さんが、はあ、と深く嘆息する。
「お二人が何を持って二舘さんの死因を自殺だと主張されているのかは分かりかねますが、普通に考えて人は自殺をする時、あんな不自然なことにはならないんですよ。そうですよねえ、八重花ちゃん?」
そう言って一さんが振り向き、私に同意を求める。
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