一言探偵の一言

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私は首肯して、 「一さんの言う通りです。あれは自殺ではなく他殺で間違いありません」  私はズレてもいない眼鏡をクイッと上げながら、助手らしく一さんに同意する。ただし、どうしてあれが他殺なのか、私は全く分かっていない。なんとなくこの場のノリでつい一さんに同意しただけにすぎない。探偵モノの助手がいつもいつも優秀だとは限らないし、陰キャだからといって空気が読めないわけでもないのだ。 「そこまで仰るなら説明してくださるかしら。どうしてあれが他殺だと思うのかを」  ぱっと見PTAの会長をやってそうな四間さんが私を見ながら眼鏡をクイッとしてみせる。本場の眼鏡クイッだ。いや、本場の眼鏡クイッてなんだ。それはともかく、是非とも私も四間さんの言うその説明とやらを一さんに聞いてみたい。一さんが無精髭の生えた顎に手を当てて、フムと頷く。そして、 「良いでしょう。八重花ちゃん。皆さんに説明してあげてくださ「え、私ですか?」」  食い気味に私は一さんに訊ねた。なに言ってんのこの人。助手といっても雇われバイトの私に分かるわけないのに。私の顔を見て不思議そうに一さんが小首を傾げる。そんな顔で私を見るな。リアルに馬鹿にされてるみたいでムカつく。 「どうやら僕たち以外の方々はまだ気づいていないようですから。八重花ちゃんの口から二舘さんのご遺体の矛盾点について教えてあげてください」  あ。これヤバい。ヤバいヤバい。今更分からないって言えないパターンじゃない? 私は脳をフル回転させる。そして、 「なるほど。分かりました。そういうことなら私から皆さんにご説明させていただきます。……でもその前に、一度夕食を取ってからにしませんか?」  私は至極真面目な顔でズレてもいない眼鏡をクイッとさせながら言った。場の空気が氷点下を振り切って絶対零度まで下がった気がした。 「ば、馬鹿にするのも大概にしてください! こんな状況で食事が喉を通るわけ無いでしょう! よくそんな清ました顔でサイコパスみたいな提案ができますね!」  三枝さんが激昂する。一さんが、まあまあと怒り狂う三枝さんを宥める。 「優秀とはいえ八重花ちゃんはまだ十九歳の育ち盛りなんです。色気より食い気なんです」  一さんが弁解する。殺人事件の何処に色気を感じているのかは分からないけど、それはきっと一さんがサイコパスだからだ。 「仕方ないのでお腹が空いて力の出ない八重花ちゃんに変わって僕が説明しましょう。二舘さんのご遺体の不審な点を」  そう言って一さんはリビングの中央をゆっくりぐるぐると回り始めた。
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