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「今から約一〇分前、使用人の七瀬さんは二階の自室に居る二舘さんに夕食の準備が出来たことを教えに行きました。そこでベッドに仰向けになり、胸に自らナイフを突き刺した状態で息絶えている二舘さんを発見した。七瀬さんは驚きのあまり大きな叫び声をあげた。その声を聞きつけ隣室に居た三枝さん、次に二階のトイレに居た五識さん、一階のこのリビングに居た我々という順番で七瀬さんの元に駆けつけた。ここまでは良いですね?」
一さんの説明に場の全員が頷く。一人一人の顔をじっくり見回したあとで一さんは続ける。
「二舘さんは自らの両手で左胸にナイフを突き刺していました。逆手に握ったナイフで心臓を一突きですね。相当な覚悟を持って挑んだことが窺えます。……しかし、よく考えてみてください」
ウロウロと歩き回っていた一さんがピタリと足を止める。そして全員に訊ねる。
「この時点で既におかしくないですか?」
「い、一体何がおかしいって言うんだ?」
「そ、そうよ! どこにも不審な点なんてないじゃない!」
五識さんと七瀬さんが少し狼狽えたような表情で訊ねる。そんな二人に目を合わせることもなく、「簡単なことですよ」と一さんは微笑を浮かべる。
「犯人は二舘さんを刺殺したあとで二舘さんに逆手でナイフを握らせ、自殺を装わせたんです。証拠は……そうですねえ。皆さん一度心臓にナイフを刺して自殺してみれば分かりますよ」
一さんの言葉に一同が絶句する。私は自信が確信に変わり、そして決心する。この人やっぱりサイコパスだ。だから探偵助手のバイトは今日限りで止めよう、と。
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