一言探偵の一言

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「どうです? これだけやっても何かおかしな点に気付きませんか?」  おかしな掛け声を止めたおかしな人がおかしなことをしていた全員の顔を見ながらおかしなことはないかと訊ねている。あ、やめて、こっち見ないでおかしさが伝染(うつ)ります。 「た、たしかに、これじゃあ自殺なんて出来っこない……」  五識さんが呟く。五識さんの言葉に満足したのか、一さんは「ようやくお気づきになりましたか」と言って嘆息する。そして答え合わせをするように説明する。 「良いですか皆さん。今試して分かったように、ナイフで自らの胸部を刺そうとすると逆手じゃ力が入れ辛いんですねー。たしかに腹部を刺す時なら逆手のほうが力を加えられる筈です。ですが、二舘さんは何故か逆手で握ったナイフで腹部ではなく胸部を刺して絶命していた。……おそらく犯人は某探偵漫画で人を刺殺した犯人が被害者に刃物を握らせて自殺を図ったかのように偽装した回を読んでいらしたんでしょうねー。その回で犯人は被害者に順手で刃物を握らせてしまったことから他殺だったことが露呈してしまった。その時のことを思い出して大して深くも考えず、逆手で二舘さんにナイフを握らせてしまった。そういうことでしょうねー」  誰とも目を合わせないまま、一さんはそう説明した。私は感心した。なんかちょっと探偵モノっぽいノリになってきたからだ。本当は当てずっぽうで他殺だと決めつけていたんじゃないかと勘ぐっていたけど、伊達に一さんも一国一城、探偵事務所の所長をやっているわけじゃないんだ。まあ、事務所のリース代を実の父親に振り込んでもらっているというのは誰にも言わないほうが良いだろうし、未だにお小遣いを貰っているのも内緒にしたほうが良いだろう。大人になったら勝手に大人になれると思っていたけど、どうやら違うらしいと一さんに出会って教えられたのだから、その点については感謝しないといけない。そんな見た目は大人、中身は子供な迷探偵は得意げにフフンと鼻を鳴らしたあとで、 「つまりこれは、れっきとした殺人事件なんでし!」  といいとこで噛んでみせた。うん。最高にダサい。 「つまりこれは、れっきとした殺人事件なんでし!」  何故二回言ったのか。そして二回言ったにも関わらず何故また噛んでしまったのかは誰にも分からない。けれど、この事件が二舘さんの自殺でないことはここに居る全員にも分かったようだ。
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