16人が本棚に入れています
本棚に追加
邂逅
一年という月日が過不足なく過ぎ去った高三の春、僕の隣には彼女が座っていた。彼女の息遣いまでもが感じとれる距離。これは紛れもなく僥倖の極みだろう。
彼女はクラスの美化委員で、花瓶に花を生けるのが仕事だ。彼女は新しい種類の花を生ける度に口癖のように、あの花の名前知ってる? と僕に訊ねてくる。
僕はたとえ知っていても、知らねえ、とだけ返し、あとは唇をまつり縫いされたように沈黙を決めこむのだった。
彼女は、もう、と頬を風船のように膨らませて、ぷいっとそっぽを向く。
きっと僕は彼女から愛想を尽かされただろう。ああ、なんて僕は不器用な人間なのだろうか。彼女のことを考えると、まるで体内の臓器までもが寸断されたように機能しなくなるのだ。いいや、単に臆病者なだけかもしれない。自分自身がホトホト嫌になる。
没交渉。
そうこうしているうちに席はバラバラになった。実際的な距離はさることながら、心と心の距離は天文学的数字だ。
これは神さまの配剤なのだろう。お前みたいな怠惰な人間が恋だの愛だの語る資格などない。この唐変木。身の丈を自覚せよ!
僕は僕に向けられた呪詛のような言葉を振り払うように窓の外に目をやった。そこは今日も青い空。鱗雲が一直線に延びている。この雲はどこまで延びているのだろうか? 僕はどこに辿り着くのだろうか?
答えは返ってこない。
返ってくるのは嘲弄だけだ。
~
と、お爺ちゃん。
憂うお婆ちゃんの背中。
僕はいつものようにその光景をただ傍観しているだけだ。もっと正確にいえば、僕は傍観することしかできない。
最初のコメントを投稿しよう!