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持ち掛ける者。
ここのところ魔物はめったに出てこない。
障害物やら立ち往生している旅人は現れる。
人助けをしたり、途中で手に入れた『元・障害物』をあげたり売ったり──
「……俺らって商人とか貸し馬車じゃあねぇよなぁ?」
「そうだと思うけど……いや、わからん……」
「知らないうちにジョブチェンジしてたりして~」
「笑えねぇって!」
ヒソヒソと冒険者たちは会話するが、サイラーはその中に加わっていない。
むしろ何か考え事をしているようで、いつもの旅に出るよりもずっと口数が少なかった。
どう見ても見習い冒険者にしか見えなかったバルトロメイがドファーニ商会の護衛隊に参加した時、確かにあの大所帯で移動していた割には魔獣や魔物が襲ってくることは少なかった気がするが、こんなに姿を現さないということはなかった。
確かに大商会の名にかけて用意された兄のテイラー肝いりの魔除け護符が商会の馬車たちだけなく、冒険者たちにも配られたということはあるが、それにしても──
「いやぁ~、兄ちゃんの馬車はずいぶん乗り心地がいいなぁ~」
「えへへー。そうですか?」
「ああ。ちっこいのに馬たちもずいぶん頑丈で…いやぁ、良い馬だなぁ……なあ、兄ちゃんよぉ。うちにはこいつらよりデカくて曳きの強い馬がいるんだが、そいつらと交換する気はないかい?」
「ないですねぇ。この子たち、あんまり他の人の言うこと聞かないみたいで……前に別の荷馬車につけて引っ張らせてほしいって言われたんですけど、まったく動かなかったんですよねぇ」
「いやいや、そりゃぁよっぽど馬に関しては物知らずだなぁ。いやいや、俺に預けてくれれば、どんな頑固モンでも素直に御者の言うことを聞くようになるってもんよ!」
「へぇ~、すごいんですねぇ~」
聞き耳を立てるとそんな会話が聞こえてくるが、どうやら馬喰らしいその男とバルトロメイの会話は噛み合っているようで噛み合っていない。
だいたい馬や牛の商いをしているのならばその商売道具ごと移動すればいいものを、何故だか小さな荷物を担いでとぼとぼ歩いていたのを拾ったのだ。
いや確かに馬を引き連れて売りに出たが、調子に乗って自分が乗って帰るはずの馬まで売ってしまったと言っていたが、そんな馬鹿な話があるかとサイラーたちは男の話を疑っている。
「……あいつって、やっぱりただのお人好しなんじゃないの?」
「だよなぁ~」
どうにかして自分の牧場にいるという馬とバルトロメイのエンとヤシャを交換しようとする男と、ニコニコと相槌を打つバルトロメイをこっそりと見ている冒険者たちは、ガタゴトと揺れる大型乗合馬車の中であの会話の落ち着く先を賭けだした。
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