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足りない者。
しばらくぶりに水っぽくなく、しかもホカホカと温かい腹をありがたく思いながら、ワンコイン弁当よりもはるかに軽い『試作品』に怪訝な目を向けた。
「……これ……本当に、3食分……?」
「おう!」
バルトメイの問いかけに、ドワーフか何かの小人族なのか、背のずいぶん低い夫婦が揃って頷く。
「ちゃんと見てみろぃっ!包みが3つあるだろうがっ!お前さんとこの魔法使いに食堂の新しい持ち出し料理」
「『弁当』って言ってたよ!アンタ。何やら異国で昼食を外で食べるのに、こう出来た料理を箱みたいなモンに詰めてくんだってさ!」
「そうそう…その『ベントー』とかいうもんを試してぇって……で、持ってくうちに腐っちゃいけねぇからって『時間停止』を付与した包みを作って」
「何か作るのに材料?とかいうのが必要らしくって、まだ包み布5枚分しかないのさ!だからまだ誰にも貸せなくてねぇ。だって、返してもらえなかったら大損じゃぁないか!」
「……そいつがさらに『あったかいもんでも試してぇ』っつって、『保温期限付き時間停止』ってぇ魔法をくっつけたのを3つだけ作ったんで、その効果を確かめてぇってな。だから1番上のは今日の昼が過ぎたら時間停止が切れる。だから夕方までほっておいたら、あったかいのから冷たいのに変わるはず……なんだが」
自分も話したいと女将さんが口を挟むのに負けず、食堂の主人は何とか説明を終える。
聞いていた方としては首と視線を交互に移動させねばならなかったが、どうやら目の前にある物は食べ物で、しかも食べる時には温めなくていいらしいというのだけは理解した。
「へぇ~、彼が……冷たいっていうのが気になりますけど……あの、じゃあ……?」
「おうっ!なんでぃ?」
「お昼の分を食べ残して、今日の夕飯分……えぇと、つまりは真ん中のやつ?と食べ比べって、した方がいい……?」
「なっ…何ぃっ?!」
キラキラと目を輝かせる小人夫婦。
「すっ、すっごいねぇ!あんた!どうしてあの魔法使いが『できれば』って言ってたことを知ってるんだいっ?!」
「は?」
感心したような女将が『すごい』を連発してテーブルを避けて室内をペタペタと走り出したが、亭主がその後をちょこちょこ追いかけて捕まえた。
「お前は大人しく座ってろぃ。あっ…ああ……その、言い忘れてたんだが……本当に『時間切れ』ができるかどうか、試してほしいんだと。ただ、今回は『お試し』だから量が作れなくって……」
なるほど。
その言い方からするに、自分に渡されたのは本当に『ギリギリ1食分×3』だと理解する。
「どっちにしろ僕が行くのは初心者ダンジョン1だから、最下層は5階。だいたいいつも2階の採取ゾーンで1回休憩するから、半分はそこで果物でも取って食べれば……」
「えっ?!」
今度は定食や夫婦の方が揃ってキョトンとし、バルトロメイの全身を上から下まで見つめる。
腰に着けているのは──採取用の袋。のみ。
「へっ?お前さん……冒険者じゃろ?索敵専門だとしても、武器の1つぐらい……」
「あ…あはは~……」
武器──になるかどうかはわからないが、バルトロメイがいつも使っている採取用の短剣の他に、身を守る物など持っているようには見えず、夫婦はキョトンと首を傾げた。
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