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声を掛けられる者。
時間も日にちも瞬く間に過ぎた。
この町に入る前に出会った商会に付き添っていた冒険者たちのうち、最終目的地ではなく途中までの護衛契約だったモノたちが戻ってきていた。
「よーぅ!元気かぁ?」
出発の時間が迫り、バルトロメイがサイラーと共に冒険者ギルドに顔を出すといくつか置いてあるテーブルの1つから声が掛かった。
それはさっき喋りながら入ってきた冒険者パーティーのリーダーである。
どうやらバルトロメイは覚えられやすいようで、こちらには心当たりがなくともこうやって声を掛けられることが多い。
今回もそのようなのだが。
「はぁ、どうも」
ぺこりと軽く頭を下げたバルトロメイは軽く頭を傾げるだけであり、「ああ、あの時の!」という反応をすることがない。
サイラーはこの町を拠点にしていることや町の顔役的な人間だったため、バルトロメイに声を掛けてきた冒険者のことも当然知っている。
というかこの町にバルトロメイがやってきた時のことを知っているため、彼があの冒険者たちにどんな反応をするのかと思って黙っていたのだが──どうやら心当たりがないらしい。
はずはないのだが、やはりバルトロメイの反応は薄いままだ。
さて彼らはどうするのか──冒険者というものはだいたい荒っぽく、世話になっていようと、世間話をしただけであろうと、互いを認めて「やあ!」と声を掛けられて「よう!」と返さない者は礼儀知らずと殴りかかるような人間が多い。
だからサイラーも万が一の場合は素早く止めに入るつもりで、さり気なく身構えていたが──
「おいおいおい……覚えてないのか?」
「はい。どちらさまでしたっけ?」
思わず冒険者ギルド内にいる職員も受付嬢も、そしてすべての冒険者たちもがズっこけた。
「おいおいおい……マジかぁ?!」
「えぇと……あ、はい。『マジ』?」
短縮した言葉にキョトンとするバルトロメイに毒気を抜かれたらしい男は大声で笑い、テーブルに座らないかと誘った。
「えぇ~と……どうしましょうか?サイラーさん」
「うん?あ、ああ。まあ、あまり時間はないが……」
「えっ?サ、サイラーさん?!」
キョロキョロと顔を動かしたバルトロメイが少し離れて見ていたサイラーに声を掛けると、その冒険者たちはギョッとしてようやく動き出した大男が連れなのだと理解したらしかった。
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