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情報をくれた者。
「ええ。壊れた馬車を直しあぐねていたはずなのに、慌てて1人が飛び出してその荷馬車に飛び乗って、御者の口を塞いだりするもんだから……ああ~、おっかしかった!」
女冒険者がケラケラと笑い、サイラーもニヤッと笑った。
「では、奴らは失敗したと思って、退散したんだろうな?」
「まっさか~」
顔を見合わせてから首を振って両手のひらを上に上げて肩を竦める女冒険者と、それに同意するように苦笑いする男冒険者。
「逆に斥候を2人も出せるほどの大所帯、護衛は専任と冒険者合わせて20人前後、荷馬車は3台以上……それぐらいの規模の商会と当たりをつけて、逆に増員してたけど」
「まあ蜘蛛の子散らす勢いで逃げていった」
「逃がしたのかっ?!」
「仕方ないっすよー、サイラーさん。あいつら、ここんとこあちこちでヤラかしている奴らっぽかったし」
「ああ、奴らはずいぶん手際が良さそうだったし、ただの野盗にしちゃずいぶん統率が取れてるようだった」
「なるほど……」
冒険者ギルド内のある食堂でテーブルを囲んでいるのはバルトロメイ、サイラー、彼の集めた冒険者、そしてバルトロメイがこの町に入る時に出会った商隊を護衛していた冒険者たちの中で契約が完了して戻ってきた者だった。
手続きが終わればすぐにでも出発する予定だったが、あの騒ぎはもちろんサイラーの耳にも入っていてその結末は知りたいと思っていたから、渡りに船とばかりに全員を食事に誘ったのである。
結局数人の逃げ遅れた者を捕まえたが、冒険者ギルドに加入していたまま離脱するのを忘れていた者以外の素性はわからず、とにかくこの町だけでなくおそらく領内一帯を荒らしていた奴らだということがわかっただけだ。
もっとも人相をきちんと記憶している冒険者もいるし、捕まった奴らも情緒酌量を期待して知っていることは話すに違いない。
これからサイラーたちも旅立つが、冒険者ギルドの便を利用して情報は送ってもらえることになった。
その間、バルトロメイはニコニコと機嫌よく食事を続けている。
あまりにも他人事という顔だが、実際彼にとってはもう関わりの無いことに心を砕くような人間らしい感情は持っていない。
それよりもご飯を食べて、この町を出て、どこかはわからないが師匠たちと住んでいた家か、それとも自分が育った森か──そこを探すという目的の方に気持ちが向いているだけである。
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