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選ばせる者。
街道を塞いでいた質の悪い自称商人たちはすべて捕らえられ、大きな市へ連行されている。
壊れたと言っていた馬車も行商を装う荷馬車もまったく問題なく動くということで、普通の罪人のように徒歩での移動ではなく自分たちの馬車が使ってのものらしい。
「まあそれでも護符や快適な魔道具なんてものは付与してもらえないから、過酷っちゃー過酷だよな」
「そうそう」
冒険者たちは皆そう言うが、バルトロメイにしてみたらどういうことかと首を傾げる。
サイラーはあの小柄な馬たちが引っ張る馬車を間近で見ているが、バルトロメイが手伝ったり助けたりしたお礼と言って渡された魔物を避けるための護符やら灯りの魔道具やら温度機能ができるものから、『壊れないように』と祈祷された馬具など様々に保護されているのを知っていた。
中にはまったく効き目のない物も混じってはいたが、それはまあ贈った者の気持ちが込められているのだろう。
何はともあれ、空間魔法やら居住魔法やら贈られたものだけでなく、同居人だった魔法使いのロダー・ピアーシュが勝手に増設した荷馬車はかなり快適なものなのだ。
しかし今回の罪人たちの馬車はそういった類の物はすべて撤去されるため、カンカン照りになろうがざあざあ降りの雨になろうが、気温が上がろうが下がろうが、そして朝であろうと夜であろうと最低限の寝具以外は与えられず死なずに到着すれば病気のままでも構わないという扱いとなる。
そんな過酷な連行のされ方を笑う冒険者たちだが、バルトロメイはそんな差別があるということはまったく理解できず、サイラーも渋い顔で「そんなことよりも」と彼の注意を引くことで同レベルになることを防いだ。
示された道は3つ。
この町まで来た道を戻り、サイラーの兄が用意した家のある町を抜けてさらにその先へ。
もう1つは海沿いの道をたどってさらに先に行き、大森林を有する地方まで馬を進める。
最後の1つはちょうどその間を取るように平野を行き、国境付近まで虱潰しに広い敷地を持つ教会を探す。
「さぁて、どれにする?」
「どれがいいんでしょうか?」
サイラーが楽しそうに選べと言ったが、バルトロメイはうーんと唸る。
元に戻ったら、ロダーはともかく、置いていかれた若者パーティーの『深緑のダガー』のメンバーが一緒に来ると言いそうだ。
山というのは遠くに見えるが、道があるようには見えない。
エンとヤシャは一緒に連れて行けるかもしれないが、荷馬車をどこかに置いていかないといけないかもしれない。
「……1番楽なのって、やっぱり平たいところですよね?」
「そう言えばそうなんだが……」
楽かどうか──まさかそんな理由を言われるとは思わず、サイラーは思わずクフッと吹き出した。
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