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思いがけない者。
平坦な道だった。
とにかく、気が抜けるほどの平和。
見通しの良い平地に拓かれた道は確かに襲撃するには適していないが、それは人間側の話。
魔物や魔獣にとってはそんな都合などまったく意味は為さず、ただ自分たちの縄張りに獲物が入ってきたというほどの知覚しかないはずなのに、それすらも現れない。
まったく魔獣たちが出てこなかったわけではなく、時折り迷い出てきたかのように、または『法則を無視した』とでも言いたいような多勢での襲撃はあったが、手練れの冒険者集団では討伐も容易く、やはりバルトロメイが手出しをする暇もなかった。
「……魔物除けがあの馬車についてるからっていって、あの馬たちの張りきりっぷりったら……」
「ああ。まるでご主人が武器を手にすることを厭うようなまでの避け方だったな……」
荷物を積んでいるとは思えない急激な停車をしたと思ったら前や横から襲撃があり、それを冒険者たちは我先にと得意の得物や魔術で討ち取って報奨となる討伐部位や魔石を手に入れた。
バルトロメイもまったく参加しなかったわけではないが、それでも短剣で倒せるような小型の魔獣──いや、魔虫という昆虫型だったり爬虫類的な魔獣を倒しているばかり。
それらもちょろちょろと馬たちの近くに這い寄った途端に躊躇なく狙い定められて蹄の下敷きとなるのだ。
「そういや、俺もあいつが剣を振るってるのを見たこと……あるか?いや、ないな」
「え?でも、あの子…あいつ?いや、どっちでもいいや。あのバ…バル何とか、剣を持ってますよね?」
「持ってるな」
持っているが──確かにアレを抜いたところを見たことがない。
どういうことだ?とサイラーは首を捻ったが、皆の疑問はしばらくして解決した。
「いいですよ~」
ンフッと満足そうにバルトロメイは刃こぼれすら起こしていないその長剣を振った。
目の前には2人で縄をかけて担げば動かせそうな大きさに切られた、大岩と大木の残骸たち。
数日前に大竜巻が発生して近くの林が根こそぎやられたということだったが、そのせいで起きた倒木とどこかから運ばれた大岩を、それこそ肉屋が肉を切るかのような気軽さで切断してのけたのが、戦闘には全く役に立たなかったバルトロメイだった。
「なっ…なっ…なっ……」
「いったい何が…どうなって……」
馬車だけでなく、この道を使って行き来する人たちが困り果て、どうにかする算段を立てようととりあえず天幕を張ったり荷馬車を寄せ集めて魔獣たちを警戒していたところに行き当たったバルトロメイとサイラーたちの集団。
冒険者たちが来たと縋られて困っていたが、魔法使いが大規模な破壊術を掛けようとしたところで、バルトロメイがヒョイと手を挙げたのだった。
その結果──今や障害物は『どこかに売り払える資材』に姿を変えたというわけである。
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