汚れし者。

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汚れし者。

まだ名も無い頃、少年は自分が「不幸だ」とは思っていなかった。 人間の両親はおらず、異形のモノに囲まれているのが当たり前。 様々なことができるモノにもできないことがあるのが当たり前。 他の者たちができることができずにいても、自分だけができることがあるのが当たり前。 誰かにとっては平気なものも、誰かにとっては毒になるのは当たり前。 だが見知らぬ場所に来た時、その『当たり前』が通じなくて混乱した。 「不幸な」 「不憫な」 「不運な」 最初はその言葉の意味も、それに付随する表情の意味も分からなかったが、徐々に、徐々に──『人間族の言葉』を理解するにつれ、それはどうやら自分のことを指して言っているらしいと察する。 察したからと言ってどうしようもないのだが──とにかく『家族』の中にいた時のような陽気な雰囲気でないのだけは理解した。 だがそれと今のこの状況と、何が結びついているのかがまったくわからない。 獣人族のモノが子を生すために交合するのは目の当たりにして知っているが、同じ種族が『家族』の中にはいなかったから、自分にはまったく関係のないことだと思っていた。 『家族』以外の種で『魔物』と呼ばれるモノは、たとえ異種であっても己の『種』を植えつけることで次代を残すことが可能なのだが、それはオスである『短し者』には及ばないと教えられていたし、『家族』は皆それらを嫌っていて、『短し者』は『家族』の誰よりも弱いから関わってはいけないと言われてきたのである。 当然この場所でも自分が『最も弱き者』だというのは、周囲を見れば言葉は通じなくとも判断できた。 しかし怖ろしいことに、『家族』の常識が通じなかった者が存在し、どうやら自分が『苗床』にされかけていたらしいことに本能で気が付くと、その手から逃れられた安心で一気に下半身が緩む。 「……うっわ!マジかよ……」 「コラッ……子供が怖い思いをしたのだ。漏らしてもしょうがあるまい……」 「いや、しかし……そいつ、もう10は過ぎているのだろう?」 「年齢ではない……育った環境が『ヒト』とは違うのだ。我らのように父母に教えられ、粗相をしなくなるよう躾けられてきたわけではないようだからな」 「チッ……」 舌打ちした男がギロリと不逞者たちを睨むと、後は任せたとばかりに少年の身体は慣れた温かさに包まれてふわっと持ち上げられた。 「さあて……私たちは部屋に戻ろう。汚れた服を着替えて、洗濯することを教えてやろう。いい機会になった」 「チッ……おい、お前ら!」 「ヒッ……」 「ガキとてめえらの大将の後始末をやっておけ!魔術部門の者は使わず、てめえらの手でちゃんと清めるんだ!」 「はっ、はひぃ……」 ふんっと鼻息荒く新たに現れた神官が立ち去ると、少年が漏らした汚れだけでなく、風魔法でぶん殴られて気絶している僧兵副隊長も下半身から床を汚しているのが確認できた。
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