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そうだね、君が望むなら
勢い良くドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
肩で息をしている私を不思議そうに見つめるその女は、若い。
化粧っ気はないが、切れ長の目が特徴的なアジアン美人といったところか。
前髪をパツっと切り揃えていても幼くは見えず、むしろ大人っぽい。
この娘が夫の……。
奥にあるカウンター席から立ち上がったのは、紛れもなく夫だ。
珍しく、驚いた表情を見せている。
当たり前よね、浮気現場に妻が乗り込んできたのだから。
「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」
何も知らないこの娘は、愛想良くたずねてくる。
おひとり様?
「いいえ!そこの夫とお二人様よ!」
渾身の言葉を投げつけてやった。
観念したのか、夫が私の傍にやってきた。
「由樹……どうして?」
「どうして?そんなの決まっている。貴方を愛しているからよ!」
どうしてだろう。
夫はズレていたメガネをクイッとあげると、少し俯いた。
顔をあげたその目元は、私の知っている優しげな皺が深い目元だ。
私の足元で、三毛猫が鳴いた。
「ニャオ……」
そのまま頭を擦りつけてくる。
気づけば、そこかしこに猫がいる。
高い遊び場から私を見下ろしているキジトラ。
警戒しているのか、低い体制で逃げ腰の白猫。
ダンボールの中にはすし詰め状態の猫、猫、猫。
ここは?
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