そうだね、君が望むなら

1/3
前へ
/13ページ
次へ

そうだね、君が望むなら

勢い良くドアを開けた。 「いらっしゃいませ」 肩で息をしている私を不思議そうに見つめるその女は、若い。 化粧っ気はないが、切れ長の目が特徴的なアジアン美人といったところか。 前髪をパツっと切り揃えていても幼くは見えず、むしろ大人っぽい。 この娘が夫の……。 奥にあるカウンター席から立ち上がったのは、紛れもなく夫だ。 珍しく、驚いた表情を見せている。 当たり前よね、浮気現場に妻が乗り込んできたのだから。 「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」 何も知らないこの娘は、愛想良くたずねてくる。 おひとり様? 「いいえ!そこの夫とお二人様よ!」 渾身の言葉を投げつけてやった。 観念したのか、夫が私の傍にやってきた。 「由樹……どうして?」 「どうして?そんなの決まっている。貴方を愛しているからよ!」 どうしてだろう。 夫はズレていたメガネをクイッとあげると、少し俯いた。 顔をあげたその目元は、私の知っている優しげな皺が深い目元だ。 私の足元で、三毛猫が鳴いた。 「ニャオ……」 そのまま頭を擦りつけてくる。 気づけば、そこかしこに猫がいる。 高い遊び場から私を見下ろしているキジトラ。 警戒しているのか、低い体制で逃げ腰の白猫。 ダンボールの中にはすし詰め状態の猫、猫、猫。 ここは?
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加