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黒猫のゴールデンアイを見つめながら呟いた。
「私が猫を飼わないかって言ったから?」
夫はまるで、今日の天気を話すみたいにサラリと言った。
「そうだね、君が望むなら」
ズルい人だ。
いつもは計算高いのに、こんな時だけ天然とは。
夫から差し出されたハンカチで、溢れた涙を拭う。
拭っても、拭っても、きりがなかった。
黒猫がペロっと私の指を舐める。
──泣かないで
私にはそう聞こえた。
猫カフェ店員の美里ちゃんは、夫を猫好きにするために、かなり奮闘してくれたらしい。
「奥様の為に……素敵過ぎるじゃないですか!燃えましたよ私!」
夫は、おとなしい性格の猫にまでシャーシャー言われ、迷いのあるぎこちない手付きを猫パンチされ、店一番の暴れん坊「せき君」には、しこたま引っ掻かれたらしい。
面白おかしく話してくれる美里ちゃんと、だんだん不機嫌になる夫が可笑しくて、涙はいつの間にか笑顔に変わる。
浮気を疑っていた事は黙っておこう。
何となく夫もわかっているみたいだ。
だけど大切な事は、ちゃんと言わなければ。
「ニャオン!」
「せき。膝に乗るか?」
大きな身体をしならせて、夫の膝に飛び乗ったせきは、スーツにバリバリと爪を立てた。
「おまえと言う奴は。ほら、おとなしくするんだ」
こんなふうにここで過ごしていたんだ。
嫌いな猫達に囲まれて、悪戦苦闘していたんだ。
スーツに染み付いた猫達の匂いをお土産に、私のところに帰ってくれてたんだ。
ありがとう、智秋さん。
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