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家族
「智秋さん、家庭裁判所に提出する書類は持った?」
二階にいる夫へ、階下から声を張り上げる。
返事のかわりに、せきが二階から降りてくる。
私の足元をすり抜け、リビングのソファーに飛び乗った。
「せき?また智秋さんに悪戯したでしょう」
やっと降りてきた夫は、ソファーで寝そべり、尻尾をパタンパタンさせてるせきを見てメガネをクイッとあげた。
「せきは、また君の植木鉢を倒していたよ。軽く掃除はした」
「もう室内の花は減らしていこうかしら」
我が家は三毛猫のせきを迎え、室内が様変わりした。
今どきの猫仕様に。
でもそれは、夫にとっても私にとっても新鮮な楽しみで、休日のペットショップ巡りに力が入る。
せきの実家とも言える猫カフェ『夜の公園』には、来月半ばになれば遊びに行ける。
せきが我が家を気に入って落ち着くまでは、里帰り禁止だったから。
奇跡的に命を繋いだからキセキのせき。
美里ちゃんが名付けたらしい。
今度美里ちゃんに会ったら、せきの奇跡を、気まぐれプリンを食べながら聞いてみたい。
家族はまだ増える。
私達は特別養子縁組を決断したから。
何度も喧嘩になって、踏み出せなかった……。
──今は違う
怖さもある。
親になる重圧も感じる。
それでも、心から望む私達の子供。
ここ一番の神頼みタルトは、どうやら私達の背中を押してくれたようだ。
玄関を出る夫にもう一度声をかけた。
「本当に、いいのね?」
夫の答えは決まっている。
「そうだね、君が望むなら」
完
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