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景に愚痴れば愚痴るほど惨めになるのは、やはり子供がいないからだろうか。
景の愚痴はどこかコミカルで、最後はノロケのように聞こえる。
「あまり深刻になっても駄目だよ?いつでも愚痴くらい聞くよ〜」
夕焼けをバックに手をふる景の足取りは軽い。
私の足取りは重い。
何が言いたいのかわからないモヤモヤしたモノを飲み込んで、帰って来た夫と食卓を囲む。
いつもより会話が少ない。
仕事の専門的なデータの話だけは、やけに長い。
聞いているフリをするだけだ。
知らないし、そんな事。
寝室に上がる前、夫は何か言いたげな素振りを見せた。
どうせ今朝の話の続きだろう。
聞きたくもない。
昨夜はソファーで寝たのだ。
今夜はベッドでゆったり眠りたい。
「少し頭が痛いの。先に休むね」
階段を上がる私の背中に、再び小さなため息が投げかけられた。
それでも私は、足を止めなかった。
こんな時だけ神様は私に罰を与えるのか?
仕返しとばかりに話を聞かなかったこの夜、背を向けて寝たのは夫の方だった。
そして次の日から、夫の帰りが遅くなった。
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