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不信感
帰宅時間が連絡もなく遅くなる。
一日の計画を綿密に立て、それを完璧にこなすのが夫のプライドで、大きな誤差は許さない。
そんな夫が連絡もせず、ここ一週間も帰宅時間がバラバラだ。
「まさか……」
女のカンが、ここぞとばかりに警告してくる。
喧嘩をした夜から大切な話は避けているけど、普通の会話は出来ている。
今夜、伏せられたお茶碗に、あたたかいご飯が盛られるのは何時なのだろうか?
午後10時過ぎ、ようやく玄関のドアが音を立てた。
「おかえりなさい」
「あぁ、遅くなってすまない」
足早に洗面所に向かう夫から、フワリと嗅ぎ慣れない匂いがした。
私の足が止まり、呼吸も止まる。
血の気が引いているだろう私の顔も見ず、逃げるように和室へと移動していく。
「着替えてくる。もう少し待って……」
私の頭の中は浮気の二文字がバチバチと弾けていて、想像が妄想に変わっていく。
夫は食卓につくとお味噌汁を啜り、ホッとした表情を浮かべている。
「仕事、忙しいの?」
「あぁ……なかなか手強い」
仕事の事で、弱気な言葉を聞くのは初めてだ。
昔からいつも余裕綽々で、言葉の端々にできる男のプライドを滲ませていたのに。
浮気ではない?
弾けて暴れまわっていた疑惑が、おとなしくなっていく。
よほど厄介な仕事を任されたのか?
そう安堵しかけた時。
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