不信感

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「難解で予測不能……だけどまぁ、やり甲斐はある」 立ち上がった夫の横顔が少し緩み、優しい笑みを浮かべたのを私は見逃さなかった。 難解な仕事など嘘だ。 私を騙そうとしてもボロは出る。 ──女だ。夫に女の影が見える。 「しばらく遅くなる。夕食は待たなくていいから」 腹立たしいほど優しい声を残し、夫はお風呂場へ向かった。 長く一緒に暮らしていると、夫の何気ない仕草や動作で、隠された感情を読み取れてしまう。 今も。 「貴方はウキウキしている……新しい恋に」 浮かれている夫とは反対に、私は為す術もなくぼんやりと立ち尽くす。 自分がどうしたいのかもわからない。 不意に激しい怒りが湧き、その後は投げやりな気持ちになり。 こんな時こそ、景に相談するべきか? 私はノロノロと親友にメールを打った。 遅刻魔の景には慣れっこだけど、今日だけは早く会いたい。 待つのは嫌だ。 今、私のまわりは、楽しそうなカップルや学生、井戸端会議の続きだろう主婦達の笑い声が聞こえてくる。 いらない、今の私にそんな楽しい雰囲気などいらない。 景なら、笑い飛ばしてくれるだろうか。 ──相変わらず想像力豊かだね。 そう言って、疑惑を否定してくれるだろうか? 「ごめ〜ん。出掛けにお姑さんがさ〜……由樹?」
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