不信感

3/3
前へ
/13ページ
次へ
景の顔を見たら涙が溢れた。 ずっと我慢してたけど、ほんとはこんなに悲しかったんだよ、私……。 私が落ち着くのを待って、景はフルーツタルトのお皿を私に差し出す。 「それは奢り。さ、話して?」 景は時々短く質問するだけで、黙って話を聞いてくれた。 景が頷く度に、長いまつ毛が何度も揺れる。 この天然の長いまつ毛が羨ましかった、昔も今も。 「離婚するなら弁護士紹介するよ?しないなら、証拠探しは止めたら?」 自分以外の口から離婚という言葉を聞くと、途端に胸が苦しくなる。 心の奥底には、平気でそれを住まわせているくせに。 「どうしたいのか、まだわかんない……」 フルーツタルトを口に運ぶ。 安定の極甘タルトは、二人がここ一番の大勝負に注文した、神頼みタルトだ。 試合の前、受験の前、そして告白の前。 今の私には、頼みたい願いがわからない。 「ゆっくり考えたらいい。でもね由樹、言葉にしなければわからない事もあるよ?夫婦だから何でもわかっているなんて……私は違うと思うよ?」 ううん。わかっている。 無口な人だからこそ、そのわかりにくい言葉尻を解釈したり、癖を見抜いたり……私だって努力しているんだよ? 子供がいないから、夫だけを見てきた10年だから。 帰り道、やけに喉が渇いていた。 口の中に甘いタルトの余韻が残っていた。 ここ一番の神頼み……。 神様は私にチャンスをくれるだろうか?
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加