尾行

1/3
前へ
/13ページ
次へ

尾行

4日ぶりに早く帰って来た夫に、気をよくしてしまう。 なのに夫は元気がない。 抑え込んでいた妄想が、自分の身体から出ていこうとする。 元気がないのは、誰かに逢えなかったから? そして、それは……何? ──赤い筋。 夫の首すじ右側に、薄っすらと赤い筋が見えた。 瞬きを忘れるくらいジッと見つめると、知らない女の笑い声が聞こえた気がした。 今すぐ着ている服を引っ剥がし、決定的な証拠を暴いてしまおう。 「先に風呂に入るよ……」 しばらくして、お湯が流れる音がかすかに聞こえても、私はその場から動けなかった。 夫の首すじについた爪痕が、勝利の宣言のようで。 ただ、ただ悲しかった。 子供を欲しがったのは貴方で、もういらないと言ったのは私だ。 散々苦しんできたのだ、今更どうなると言うのか? その答えがこれならば、やはりこの世は不公平だ。 夫は若く美しいだろう女と、新しい人生を歩こうとしているのか。 家族というカタチを、また一から組み立てる為に。 それならば納得だ。 子供を産めなかった私に、もう用はないのだろう。 覚悟は決まった。 離婚しよう……。 夫の人生からフェードアウトして、私の人生を歩かなければ……。 ただ……。 夫の相手はどんな女なのか……。 あの夫を微笑ませ、悩ませる女……。 顔を拝んでから離婚してもバチは当たらないだろう。 私は夫を尾行し始めた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加