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尾行
4日ぶりに早く帰って来た夫に、気をよくしてしまう。
なのに夫は元気がない。
抑え込んでいた妄想が、自分の身体から出ていこうとする。
元気がないのは、誰かに逢えなかったから?
そして、それは……何?
──赤い筋。
夫の首すじ右側に、薄っすらと赤い筋が見えた。
瞬きを忘れるくらいジッと見つめると、知らない女の笑い声が聞こえた気がした。
今すぐ着ている服を引っ剥がし、決定的な証拠を暴いてしまおう。
「先に風呂に入るよ……」
しばらくして、お湯が流れる音がかすかに聞こえても、私はその場から動けなかった。
夫の首すじについた爪痕が、勝利の宣言のようで。
ただ、ただ悲しかった。
子供を欲しがったのは貴方で、もういらないと言ったのは私だ。
散々苦しんできたのだ、今更どうなると言うのか?
その答えがこれならば、やはりこの世は不公平だ。
夫は若く美しいだろう女と、新しい人生を歩こうとしているのか。
家族というカタチを、また一から組み立てる為に。
それならば納得だ。
子供を産めなかった私に、もう用はないのだろう。
覚悟は決まった。
離婚しよう……。
夫の人生からフェードアウトして、私の人生を歩かなければ……。
ただ……。
夫の相手はどんな女なのか……。
あの夫を微笑ませ、悩ませる女……。
顔を拝んでから離婚してもバチは当たらないだろう。
私は夫を尾行し始めた。
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