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昨夜の喧嘩
激しい喧嘩の後、腹が立ってソファーで寝てしまった。
きっと頬にはクッションの跡が無様についているだろう。
喉の奥に塊が詰まっているような、なんとも言えない気分の悪い朝にため息が漏れた。
夫はもうすぐ起きてくるだろう。
何食わぬいつもの顔で、いつものように私が淹れたコーヒーを飲み、いつものように仕事に向う。
「昨夜は悪かった」など、決して言わない人だ。
私の怒りが冷める時を、いつも計算しているのだ。
カーテンを思い切り開けた。
ワッと脅かされた時のように、朝日が私に悪戯を仕掛けた。
そうか……もうそろそろ春なのだ。
この東側の窓から注がれる朝日に、目を瞑り身を委ねてみる。
「気持ちいいな……」
喉の奥の塊が溶けだした。
身体中を覆っていたグレーのベールも剥がれていく。
浄化とはこのような事を言うのか?
春めいてきた朝日の力で、喧嘩の余韻が消えて
いく。
そう、私は昔から単純な性格なのだ。
「おはよう」
振り向けば、夫が訝しそうに私を見ている。
「ねぇ、智秋さん、猫を飼わない?」
夫の眉がピクリと上がる、ほんの少し。
困惑した時の癖だ。
「……猫。僕は動物は苦手だ」
あぁ、そうね……。
貴方は昔から、動物にも人間にも興味が薄い。
そして妻にもね。
貴方の頭の中は、今日の会議と、頼りない上司と、馬鹿な部下達をどうやって組み立てて成果を出すか?それだけだものね。
「そう……」
淹れたてのコーヒーを渡しながら窓を見ると、さっきまで力強く輝いて見えた朝の風景に、またフィルターがかかった。
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