そつぎょう、そつぎょう。

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そつぎょう、そつぎょう。

 桜の花びらが、ひらひらと私の肩に舞い降りる。なんとも風流なこと、と思いながら制服にくっついた花びらを一枚つまんだ。白いおこめのような形の中に、僅かに薄桃色の線が入っている。綺麗だなあ、としみじみしながらそっとポケットの中に入れた。なんとなく、今日はいいことがありそうな気がしている。  市立S中学校、今日はその卒業式だ。  自慢じゃないが、私は行事のほとんどで雨に降られたことがない。妹と比較しても圧倒的に、私の方がイベントで晴れることが多いと思うのだ。おかげで、運動会でも修学旅行でも、雨に降られて残念だったねーなんてことが記憶にある限りほとんどない。きっと私は生まれつき幸運に恵まれているんだろう、なんてことをうっすらぼんやり思って生きてきた十五年である。  それは、私自身で引き寄せてきたものもあるのかもしれない。友達にもよく、“瑠可(るか)ってほんとポジティブ人間だよね”なんてことを言われるタイプだ。暗いとか、鬱だとか、私にはほぼ縁がない。落ち込んでもすぐに切り替えるのが得意だから、と言えばいいのか。 ――今日は天気もいいし、桜も綺麗だし、いい卒業式になりそう。  うーん、と気持ちの良い春の空気を吸い込んで、私は下駄箱の方へ歩いていった。なんとなく、いつもより少し早めに登校してしまった。この学校に来るのも今日で最後。ちょっとだけ、この空気を堪能しておきたかったというのもある。 「ん?」  校舎に入ろうとしたところで、私は妙なものに気づいた。西門横の桜の木の下で、三人の少女が集まって何かをしているのだ。少し離れていたが、視力には自信がある。おだんご頭、ツインテール、みつあみ。あの特徴的な髪型は見間違いないだろう――同じクラスの、彩夏(さやか)、美子、ゆめ、だ。 ――なんか、あんまり楽しくなさそう。  この距離では、会話は聞こえない。ただ、三人は肩を寄せ合って泣いているように見えた。彼女達はクラスでも一緒にいないことを見ないほど仲が良い。友達というより、三つ子の姉妹のようだという印象を受けるほどだ。他の子とも喋らないわけではなく、私とも何度か話をしたこともないわけではないのだが。 ――そういえば、三人とも最近落ち込んでたもんね。……今日は、凄く淋しい日なのかも。  なんとなく話は聞いている。彼女達は学力もバラバラな上、特に彩夏に至っては中学卒業と同時に東京に引っ越すことが決まっている。それぞれ別の高校への進学することになっているし、会える機会もめっきり減ってしまうだろう。私にとっては卒業は大人になるための重要なステップでしかないが(他の友達だって、まったく会えなくなるわけじゃないしという気楽なスタンスである)、彼女達にとっては今生の別れの儀式に近いものであるのかもしれない。  少なくとも、東京に行ってしまう彩夏と後の二人は会いに行くのも大変なはずだ。なんせ、新幹線に乗らなければいけない距離なのだから。 ――離ればなれになりたくないんだろうな。……ちょっとだけ羨ましいなあ、それくらい大切な友達がいるっていうのは。  ほんの少しだけしんみりした気持ちになりつつ、私は校舎に入ったのだった。  そういえば、西門の桜の木の下で、彼女達は何をしていたのだろうと思いながら。
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