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「それ、“卒業式の儀式”かも?」
「なんじゃそりゃ」
卒業式のやり方は学校によって異なるだろう。開始までの時間は、体育館もかなりざわついている。パイプ椅子に座って待っている間、私は隣の席のナツメと話をしていた。私達は同じ苗字であるため、名前の順で並んだ時は必然的に席が前後、もしくは隣になるのだ。それがきっかけで、今のクラスになった時に一番最初に仲良くなった友達でもある。
「瑠可っち、そういうのあんま興味ないのか」
今日桜の木の下でさあ、という話をナツメにすると。彼女はくるくると指を回しながら教えてくれた。
「あたしは新聞部だったしさー、オカルト関係の記事もいろいろ書いてたから知ってんのよ。この学校には、面白いおまじないの類がいっぱいあるわけ」
「うっへ、みんな好きだねー、おまじないとか怪談とか」
「退屈な学生生活に、ほんのちょっと刺激を齎してくれるもんだからね。そりゃ、おまじないで異世界転移させてくれーって言っても無理だろうけど、ちょっとしたオバケくらいでも遭遇できたら楽しいじゃん?神隠しされるのは勘弁だけど」
「まあ、なんとなく想像がつくけど」
そういうものか、と思う。
私は普段の学校生活がつまらないと感じたこともないので、考えたことはなかった。でも確かに、突然異世界に転生させられてチート能力がー、とかいうラノベが流行するのも、そういうものを面白いと思う人が多いのもそういう理由なのかなと思う。普段の、魔法もオバケもいない生活が退屈だと思っていたり、あるいは仕事や学校生活が辛くて逃げたいと考えていたり。そういうものを、ちょっとだけ忘れてくれるのがラノベであるか、あるいはオバケみたいなものに出逢えるおまじないや怪談であるかの違いなのではなかろうか。
それは、そういうものを実行してもどうせ深刻なことにはならないだろう、という楽観的な考えあってのものだろうけれど。
「で。卒業式の日、卒業する三年生にだけできるおまじないがるらしいのよ」
ナツメは得意げに胸を反らして言った。
「西門の桜の木の下に、お願い事と自分の名前を書いた紙人形を埋めて、おまじないの言葉を唱えるんだってさ。そうすると、この学校の守り神様が願いを叶えてくれるらしいんだけど……ちょっと霊感がある先輩いわく、あんまやらない方がいい類のおまじないなんだって」
「というと?」
「この学校の守り神様にお願いする系のおまじないだから、だって。守り神様って、学校の生徒が大好きらしいの。だから、お願いをすると絶対叶えようとしてくれるんだけど……力のコントロールがどちゃくそ下手なんだとさ。お願いを、望んだ強さで叶えてくれるかどうかわかんないんだって。強い気持ちで願えば願うほど、強い力で叶えてくれるらしいんだけど」
「何そのドジっ子神様」
「笑いごとじゃないよ。新聞部のOGがおまじない試して、好きな先輩と恋人同士になりたいってお願いしたらさ。その先輩の彼女が、電車にはねられて死んじゃったっていうんだから」
「……マジで?」
「うん、マジで」
確かにそれは、笑いごとではない。OGの先輩が、好きな人と恋人同士になるためには、その先輩の現在の彼女が邪魔だった、だから殺したのではという理屈だ。もし本当にそうなら、おまじないの効力がちょっと凶悪すぎると言わざるをえないが。
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