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「本当にそうならやばいけどさ、それがおまじないの効果かどうかなんてわかんないよね?」
疑問はそこに尽きる。他にもおまじないをした人がいて、その願いがみんな斜め上の方向で叶ったというのなら話は別だが。
「そこなんだよねー。あたしが聞いた“おまじないを試した”話、その先輩の件だけだからさー」
はーあ、と息を深く吐いてナツメは椅子に凭れかかった。
「誰か別の人が、安全そうなお願いで実験してくれればいいんだけどさ。そもそもこのおまじない、他のおまじないと比べて知名度がないらしくって。でもって、卒業式の日に卒業生しか試せないもんだから、条件が厳しいってのもあって。あ、そういえば、桜がその日に咲いてないと効力がほとんどなくなるってのも聞いたことあるなあ」
「うわあ、本当に条件きっちーね」
「そうなの。だから、OG先輩のおまじないの効果でマジで人が死んじゃったかどうかわかんない、って。ただ、霊感のある先輩いわく、マジもんだから試すのはやめとけってことなんだけどさ。あたしもちょっと怖い気持ちはあるし」
「まあ、人に迷惑かけるのは嫌だしねえ」
私はなんとなく、体育館の左手の壁を見た。ちょうど、その向こうに西門があり、例の桜の木があるのを知っているからだ。
あの三人は、そのおまじないを知っていて試したということだろうか。もしそうなら、どんなことをお願いしたのだろう。普通に考えれば、自分達の友情がずっと続くように、とかそういうものだろうが。
「彩夏たち、マジでおまじないしたのかな。何をお願いしたのかな」
思わずぽつりと呟く私。
「変な叶い方、しないといいけど」
「どうだろうね。でもまあ、多分大丈夫じゃね?」
少しだけ深刻な気分になった私をよそに、ナツメは笑ってひらひらと手を振る。
「きっと、“ずっと三人で一緒にいられますように”とか、“三人の友情が永遠に続きますように”とかそのへんでしょ。誰かと恋仲になりたいとか、学校滅びろとかじゃなさそうだし、人が死ぬような叶い方をするお願いじゃないと思うなー」
「まあ、それもそっか。それなら悪いお願いじゃないしね」
「うんうん。それこそ、他にも同じようなお願いでおまじないした人がいたかもしれないしね。卒業で友達と離ればなれになりたくないってのはあたしも分かるし、いやー青春だわー」
「ナツメ、おばさん通りこしておっさんくさい」
「うっさい、ほっとけ」
その時だった。開いたままの体育館の扉の向こう、ぽつん、ぽつんと雨のしずくが落ち始めたのである。え、と私は眼を見開いた外で雨が降り始めた、ということらしい。晴れ女の私の卒業式で、これはあまりにも珍しい。というか、今日は一日晴天ですと天気予報でも言っていたというのに。
「雨降ってきた……うっそー?」
「あらら」
雨脚はどんどん強くなる。驚く私の肩を、ナツメは笑顔でぽんぽんと叩いた。
「ま、瑠可の晴れ女効果も絶対じゃないってことで。そういう日もあるよー。むしろ珍しい出来事だし、これはこれでいいことが起きる前兆かもよ?」
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