駄菓子屋かたいは今日も賑やか

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 どうしようもできず、犬養の思考が止まろうとした時だった。 「はーい、そこのキミー。銃を下ろしなさーい」  怪しい人の後ろから第三者の声が響き渡る。しかし怪しい人の後ろは大きな壁である。だがその声に犬養は聞き覚えがあった。  銃を持ったそれは一体どこから声が聞こえてきているのか、辺りを忙しなく確認する。そして自分の背後の、壁の上を見て固まった。  壁の上には、煙草を吹かしながら拡声器を口元に当てているやつれた中年男性が。その中年男性に犬養は見覚えも、聞き覚えもあった。やつれた顔にやる気のないだらけた喋り方、そして自分と同じエプロン。そこにいたのは駄菓子屋かたいの店長だった。いつものエプロン姿の店長が壁の上の、屋根の上でしゃがみ込みながらこちらを見ていたのだ。何故店長がここにいるのだと犬養はツッコみ叫びたくなるも、いつもとどこか違う店長の纏っている空気にそれは叶わなかった。怪しい人が店長の存在を認識したのを合図に、路地の上を犬養と怪しい人を囲むように武装した警察がぞろぞろと出てきた。不利な状況だと察した怪しい人は持っている銃をカタカタと震えさせる。 「どもー、円河市警察怪奇現象対策課(まるかしけいさつかいきげんしょうたいさくか)、略して怪対(かいたい)でーす。ま、俺は違うけど」  店長が呑気に手を振りながらそう言えば、どこからともなく撃たれた弾が怪しい人の拳銃を弾く。そしてそれを合図に屋根から次々と怪対と呼ばれた警察部隊が屋根から飛び降り、瞬く間に怪しい人は取り押さえられ、少女は無事保護された。何とも鮮やかな流れに犬養はポカーンと立ち尽くすことしかできなかった。  普段だらけている人が取ると思えない軽い身のこなしで下へ飛び降りた店長は、顔に大きな傷跡のあるスーツの男と言葉を交わすも、緊張が解けて今にも膝から崩れ落ちそうな犬養に気づき、駆け寄って彼に肩を貸した。 「おーっと、バイト君。大丈夫か?」 「あー……はい、大丈夫です。力が抜けただけなので……」 「そう、それならいいけど。しかしキミはよく頑張ったよ。勇敢勇敢」  まるでここまでの犬養の行動をあたかも見て来たかのような発言をしながら店長はポンポンと犬養の頭を撫でる。犬養の両目がジワリと涙で滲んだ。  音を立てないようにして鼻を啜った犬養は、振るえそうになる声を必死に抑えて店長に問い質した。 「あの、店長。あの怪しい人は何なんですか」 「うーん、ざっくり言えば人外をヤバい所に売買したり、無害な人外を殺す犯罪組織の人間」  どう伝えようかとほんの少し考えた割には中々に刺激の強いことを言う店長に、犬養はピシャリと固まる。涙も鼻水も止まった。 「こーれだから俺は人間が嫌いなんだよ。人外を平気で売り飛ばすし、平気で殺す」  けっ、と唾を吐き出すように言葉を吐き出した店長に、犬養は思わず聞いてしまう。 「あの、店長も人間ですよね? 」  その言葉に店長は自嘲気味に笑いながら「まあね」と静かに返したのだった。
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