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妖怪、怪異、化け物などの人外が人間社会に紛れて生活している街、円河市。彼らがこの街で人間に化けながら暮らしていることは一部の人間にしか知られていない。
人類の英知と最新技術が詰まった駅前から一歩も二歩も奥まった場所に、小さな駄菓子屋はあった。
煌びやかな都会からやって来た人からすればスラム街に匹敵するその廃れた地域。「駄菓子屋かたい」と掲げられた昭和レトロな香りが漂う建物の前に、どこかの学校制服を身に纏った青年が一枚の紙を持って棒立ちをしていた。
別に威圧感を放つ巨大ビルでもないのに、その青年は緊張した面持ちで入り口の上に掲げられている看板を見上げている。露になっている喉仏が上下に動いた。
そんな不審な青年を、レジで木箱に座りながらエプロンを身に纏い、棒付き飴を咥えてどこかやつれた駄菓子屋には似つかわしくないおっさんが声をかけた。
「おい、キミ」
「え、あっ、オレっすか? 」
「そうだよキミだよ。他に誰がいる」
周囲をキョロキョロと見回す青年に、おっさんははぁーと呆れたため息と一緒に飴を出す。彼ら以外に人は何処にもいない。
「冷やかしに来ただけなら帰ってちょーだい。商売の邪魔だ」
「あ、いや冷やかしチガイマス! 」
「あー? 」
緊張のあまりカタコトになっている青年におっさんは怪訝な顔をする。その睨みの効いた表情に帰りたくなるも、青年はある目的があってここにやって来ていた。帰る訳にはいかない。青年はどこかぎこちないがしっかりとした足取りでヅカヅカと真っ直ぐレジまで歩めば、手に持っていた一枚の紙をおっさんの前に突きつける。紙の左上には「履歴書」の三文字が書かれていた。
「オレ、ここにバイトとして応募しに来ましたっ! 」
「お、おう? 」
履歴書が今にもおっさんの顔に貼り付きそうである。そのあまりの勢いにおっさんは少し仰け反っていた。
「なんでまた」
声色からしておっさんが懐疑的なのが伝わってくる。しかし青年はここで負けてられんと履歴書をさらに押し付けようとしてくるので、おっさんはそれを軽く退けた。
「入り口の! バイト募集と書かれたあの紙を見て! 」
「あ? あー……なるほどね」
青年が指さす先に視線を送れば、黄ばんだ古臭い紙が一枚貼られていた。その様子におっさんは一人で納得している様子だった。
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