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『星が降って事件が終わる』
食堂での隆司の謎解き。
歩き周りながら話す彼を、私達は静かに聞いている。
「ここまで来たら事件の全容を話しましょう。
まず西部さんが朝花ちゃんたちを事件の目撃者とするために、星が見える展望台に続く小道へと連れていきます。
まぁ僕が行けなかったのは予想外でしょうが。そのため僕と父には逆に部屋で待機させた」
そう言って一度立ち止まったあと再び歩き始める。
「続けます。
その後山吉さんがやってきました。
彼は警察官という信頼性のある人として、実際に大柄な犯人と対峙する役柄のつもりだったのでしょう。
山吉さんはいいタイミングで2階に上がって来ました。
丁度ヒイラギさんが放り落とされるタイミングで。
確か、あのときあなたは駆け上がってきましたよね。でも少し不思議です。貴方が階段を上がってるときは何が起きてるかなんてわかってないはずなのに」
「...」
隆司が視線を山吉さんから小男さん(仮)に移す。
「ちなみにあなたはおそらく西部さんから合鍵をもらって部屋に入って、彼女を不意打ちで気絶させたのでしょう。鍵が閉まってるはずの被害者の部屋に犯人が入れたことも西部さんが共犯であることへの取っ掛かりの1つでもありますね」
隆司からの目線を受けた小男さん(仮)は黙ったままだ。
「話を戻します。
その後山吉さんは僕たちに部屋から出ないように釘を刺した後に、あたかも犯人を取り押さえるような音をたてます。おそらくは彼が厚底靴を脱いだりして自分の部屋に戻るのを誤魔化そうとしたのでしょう。
あとは犯人を追いかけるふりをして早々に戻ってくるつもりだった。ところがここで予想外のことがおきましたね?」
そう言って私を見る隆司。
もしかして...。
「私も追っかけていったこと?」
「そう。
だから仕方なく、朝花ちゃんをなんとか振り切った後に逃げられたと偽って戻ってくることにしたんだろう」
なるほど。
暗くて前にいるはずの犯人が見えないと思ってたら、元々いなかったのね。
なんか損した気分。
「それに、バイクで外から来たばかりの山吉さんが犯人と争ってたら、もう少し廊下の絨毯は汚れてるはずでしたしね」
確かに。あのときの絨毯の綺麗さと山吉さんの服の乱れが対照的だったのが印象に残ったけど、あれはたしかにおかしいわ。
「まぁざっとこんな感じでしょう。
あとは電話線をわざと切ったりして、外部との連絡を断つことで不安を煽って部屋にこもらせた後、夜中に証拠を処分するつもりだったのでしょう。
そして翌日、僕たちに証言させる。
と、まぁこんなもんでしょう。
あってますか?」
そう言って隆司は立ち止まった。
「まさかこんな子供に見破られるなんて...。だからやめておいた方がよかったんだよ...」
不意に小男(仮)さんが声をあげてボロボロと泣き始める。
「だいたい1番最初にお前がボロ出さなきゃいいんだよヤスムラ!!」
急に声を荒げた山吉さんに、思わず身がすくむ。
「元々私達の計画は完全犯罪。もうこれは諦めるしかないですね」
そう言うのは西部さん。
どうやら隆司の推理は合ってたみたいだ。
「でも、ここで全員消せば――」
「警察だ!!そこを動くな」
山吉さんが物騒なことを言いかけたその時、食堂の扉を勢いよく開けて何人もの警察官がなだれ込んできた。
あっという間に3人を取り押さえる。
「え?!
何故だ?!ここは圏外。電話線も切ったのに...」
「あぁ、僕の使ってるパソコンは少々特殊な通信を使っててね。まぁ正確には僕の車経由なんだけどさ。友達の警察に連絡したってわけ」
隆司のお父さんがさらっととんでもないことを言う。
「...畜生!」
観念したのか山吉さんは大人しく外に連れて行かれた。
他の2人も、諦めがついてたのか素直に連れてかれた。
「いやー流石隆司というかなんというか」
「本当よね。もうあーっと言う間に犯人分かっちゃうなんて」
「ふっ。僕を誰だと思ってるんだい?」
とりあえず一段落がついて、今大人たちが警察の人から事情聴取されてる。
「さぁさぁ、皆で帰ろうか」
話が終わったのか隆司のお父さんが戻ってきた。
「もう終わりなの?」
「いや、後日改めて話を聞きたいとは言われたけど、今日はもう遅いからね。君たちを送らないとだし」
確かに、もう9時だ。いつもだったらもう寝る時間なのに。
「そういえばなんであんなわざわざ大変なことをしてまであの3人は人を殺そうとしたんだ」
京人のもつ疑問はもっともだ。
「あぁ、警察の人いわく、管理人の西部、それにヤスムラと呼ばれてた小柄な男は元々あのヒイラギさんと事業をたち上げてたらしいんだ。ところがそれがうまくいかず、ヒイラギさんは諦めたんだって。ここからは警察の人の想像だけど、それを裏切りだと考えた2人は昔の友人で、警察官になった山吉に復讐の方法を相談したと思われるみたい。で、山吉が警官という立場をうまく利用した今回の計画を立てたんじゃないかって。元々山吉にはあまり良くない噂があったが、まさかここまでとは警察の人も思ってなかったらしいよ」
え?!それってヒイラギさん全然悪くないじゃん!!
そして私はもう1つ大事なことに気づく。
「でも隆司のお父さんが外と連絡取れてなかったら今頃どうなってたんだろう」
ちょっと想像して身震いしてしまう私。
「いや、そんなんだったら皆集めて謎解きしてないだろ、隆司。いくらお前だって」
「さぁね。まぁまぁ、兎にも角にも早く帰ろうよ」
そう言って、玄関口を出る隆司。
「ちょっとまってよー」
「いやー眠い。早く寝ないとなぁ」
「そういや、兎にも角にもってなによぉ」
「とにかく、ってこと。普通に言ったんじゃつまらないでしょ」
こうやって騒ぐ私達のところに高橋さんたちカップルがやってきた。
「ありがとう。小さな名探偵さん」
「いやぁ、びっくりしたよ。君みたいな賢い子がいたおかげで、俺たちは偽の証言をさせられずに済んだからね」
そう言って礼をする2人。
さっきまで怯えてた高橋さんはすっかり元気になってる。
「まぁ僕にかかればこんなもんですよ」
「少しは『そんなことないですよ』とかいえよなぁ」
「ははっ。なかなか面白い子達だね」
「それにしても折角だから、流れ星見たかったなぁ」
京ちゃんの言葉に応じるように空を見上げる私達。
その時。一筋の光が暗い空を切り裂いた。
「あ!」
流れ星はそのまま崖下へと消えていった。
そう。まるで、ヒイラギさんのように...。
「僕だって謎解きは好きだけどね、事件は嫌いなんだよ。こんなことはもう起きてほしくないね」
そう呟いた隆司に同意するように、そっと私達は頷いた。
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